[藤原裕之の金融・経済レポート]

(2016/12/21)

企業は「消費の疑似体験」にどう対応すべきか

 藤原 裕之((一社)日本リサーチ総合研究所 主任研究員)
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消費低迷 ~しっくりこない理由

 消費低迷が長引いている。今年10月の消費支出は実質ベースで前年比0.4%減となり、14カ月連続の前年割れとなった。消費低迷の理由としてよく目にするのが、「生鮮野菜の高騰で家計の節約志向が高まった」「金融市況の低迷で資産効果が減った」「消費統計に不備がある」などである。どれも決して間違いとは言えないが、14カ月も消費がマイナスになっていることの説明としては弱い。

 筆者がそう感じる根拠は、今の消費には2つのパラドクスがあるからである。1つは、所得環境が改善しても消費が上向かないパラドクスである(図表1)。実質賃金は、物価上昇の影響等で昨年頃まではマイナス状態にあったが、今年に入ってからはプラス圏に浮上している。実質賃金がプラスになれば実質消費も上向くのが過去のパターンであるが今の消費には当てはまらない。

 もう一つは、マインドと支出のギャップに伴うパラドクスである。弊所が発表している生活不安度指数と消費支出を並べてみると、生活不安度の改善と消費の低迷のコントラストがはっきりみえる(図表2)。このグラフから、将来不安の高まりが今の消費低迷の理由にならないのは明らかである。

図表1 賃金と消費支出の推移(前年同月比)
 


図表2 消費者マインドと消費支出
 

 


「消費の疑似体験」が支出を押し下げる?

 所得とマインドが改善しているのに消費が上向かないのはなぜか。そこで筆者が注目するのが「消費の疑似体験」という現象である。消費の疑似体験とは、関心のある商品やサービスの情報をネットやSNS等で収集・共有・拡散していくうちに、「使ったつもり」「やったつもり」「行ったつもり」になり、結果的に購買に至らない現象を指す。消費者自身は満足度(効用)を得ていても、購買行動にはつながらない。企業からみると消費者はモノを買わなくなったと映るが、消費者自身は節約志向や将来不安で購入を我慢しているわけではない。「~したつもり」になって満足しているのである。

 消費の疑似体験は趣味・娯楽などレジャー活動で顕著に表れている。NHKが5年ごとに実施している国民生活時間調査をみると、直近2015年調査では、ネットを利用したレジャー時間が海外旅行などリアルのレジャー時間を上回った(図表3)。ネットによるレジャー時間の多くは無料動画やSNSの投稿など、支出を伴わないものが多い。旅行計画中に現地の動画をみているうちに「行ったつもり」になって旅行に行くのをやめてしまった、といった話をしばしば耳にする。また、海外旅行に行ってきた人(特に若者)に感想を聞くと…



■藤原 裕之(ふじわら ひろゆき)
略歴:
弘前大学人文学部経済学科卒。国際投信委託株式会社(現 三菱UFJ国際投信株式会社)、ベリング・ポイント株式会社、PwCアドバイザリー株式会社を経て、2008年10月より一般社団法人 日本リサーチ総合研究所 主任研究員。専門は、リスクマネジメント、企業金融、消費分析、等。日本リアルオプション学会所属。

※詳しい経歴・実績はこちら

 

 

 

 

 

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