[Webインタビュー]

(2016/11/22)

【第76回】英国のEU離脱で欧州の中規模M&A市場はどうなる

 ダレン・レッドメイン(リンカーン・インターナショナル シニアアドバイザー 前ロンドン代表)
 マーク・ヴァン・グロンデル(同 マネージング・ディレクター)
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 英国のEU離脱決定後、英国及び欧州のM&A市場は長期停滞を予想する向きが大勢である。一方でソフトバンクによるARM社買収をはじめ、ポンド安を英国企業の買収の好機と捉える動きも見られる。中規模M&Aに特化した投資銀行であるリンカーン・インターナショナルのシニアアドバイザー、前ロンドン代表ダレン・レッドメイン氏とマネージング・ディレクターのマーク・ヴァン・グロンデル氏にEU離脱を受けた英国及び欧州の中規模M&A市場の現状と展望を聞いた。

回復基調の欧州M&Aマーケット

―― 2016年6月のEU離脱決定から間もなく半年が経ちますが、英国内では一時混乱したものの、落ち着きを取り戻しているようです。EU離脱決定当時の英国の金融関係者の心境はビートルズの曲で例えると「HELP!」だったのか、「WE CAN WORK IT OUT」(何とかすることが出来るよ)だったのでしょうか(笑)。

レッドメイン 「離脱決定の直後は確かにサプライズで、非常にシビアな影響が通貨や証券市場に出ましたが、新首相が迅速に決まり、組閣も抵抗勢力をうまく取り込むかたちで無難に収まりましたから『WE CAN WORK IT OUT』だったと言っていいでしょう(笑)。離脱の手続きや着地内容についてはこらからの話ですが、いずれにしても長期戦になるということがわかってきました。すぐには何かが大きく変わることはないし、ハードランディングなことも起きないというコンセンスができていると思います」

―― 英国の中規模M&A市場は離脱決定後どうですか?

レッドメイン 「国民投票直前まで残留予想が大半だっただけに、離脱決定直後はM&A市場では規模を問わず進行中だった案件はホールド(中断)を余儀なくされ、これから売りに出そうとしていた案件も日程を無期延期する事態となりました。しかし、その後ポンドの大幅下落を受けて外資が英国企業または在英資産の買収に乗り出すなど、中規模M&A市場はまた動き出しています」

―― 英国以外の欧州における中規模M&A市場はどうですか?

レッドメイン 「欧州域内を主な事業基盤とする企業は業績の先行き不透明感が強く、そうした企業を巡るM&Aでは中断又は延期するケースが増えていたのですが、競争力のある技術などを背景にグローバルに事業を展開する企業は業績に大きな落ち込みがないため、ユーロ安もあって海外勢からの買い意欲は衰えていません。

 英国の国民投票の結果について様子見を行うということで、少し動きが止まっていた案件が、国民投票直後の混乱が大分落ち着いたということもあって、結果としては以前よりも増えています。現地では『Brexit Bounce』、つまりBrexitの反動と言っていますが、むしろ活発になっています。その要因としては、やはり今申し上げた通貨安があります。海外企業から見ると安く買収できるということと、売り手の方でも売却価格の目線を少し下げたというか、現実的になってきたということで取引も成立するようになっています。実際、最近ドイツのフランクフルトに行ったのですが、完全にM&Aマーケットは回復しています。もちろんみんな今後の課題があることは認識していますが、うまく収拾できるだろうというコンセンサスができているので欧州でも順調に回復していると言っていいと思います」

重要性を増すJV戦略

―― ところで、こうした中でリンカーンは新たにJVアドバイザリー事業に参入するとのことですがその狙いは何ですか?

グロンデル 「まず第1に、世界の企業売上の35%以上がアライアンスを通じた売り上げとなっているということです。つまり、パートナーシップやアライアンスの成否が企業業績に与える影響は益々大きくなっており、この分野における専門的なアドバイスへの需要が増えているということがあります。

 第2に、欧州のM&A件数について回復基調だと申しましたが、M&Aアドバイザーとしては提供するサービスの幅を広げ、追加的な収入源の拡大を図る必要があると考えていました。そこで目を付けたのがJVをはじめとするパートナーシップやアライアンスです。リンカーンが持つグローバルなネットワークが活用できるという強みを活用できると考えたわけです」

―― このJVのアドバイザリーをおやりになるというのは、対象は英国企業とのJVということになりますか。

レッドメイン 「英国企業とのJVに対するサービスに限りません。リンカーンのグローバルなネットワークを活かして世界中の企業を対象としています」

JVやアライアンスで成功するためのポイント

―― 日本企業によるJVアドバイザリーに対するニーズは多いですか?

グロンデル 「日本企業は世界的に見ても…


 

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