[【企業価値評価】事業法人の財務担当者のための企業価値評価入門(早稲田大学大学院 鈴木一功教授)]

(2019/08/14)

【第11回】エンタプライズDCF法とフリー・キャッシュフロー

鈴木 一功(早稲田大学大学院 経営管理研究科<早稲田大学ビジネススクール>教授)
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1.様々な企業価値手法 (復習) 


 連載の第10回までで、企業価値評価に必要となるコーポレート・ファイナンス理論についての説明は終わりました。ここからは、企業価値評価の実務に関して、その手順を説明していきますが、その前に、ここまでの理論が企業価値評価の実務において、最も頻繁に用いられるエンタプライズDCF法とどのように関係するかについて、説明します。

 本連載の第1回で説明したように、エンタプライズDCF法は、数多く存在する企業価値評価の手法のうちの1つです。そこで、エンタプライズDCF法の特徴を理解する前提として、復習を兼ねて、図表1と同じものを、図表11-1として以下に掲載しておきます。

図表11-1 様々な企業価値手法



 企業価値を評価する手法には、大きく分けると企業の貸借対照表(バランスシート)に着目するストック(資産)ベースのアプローチと、企業の利益やキャッシュフローを基に企業価値を計算するフローベースのアプローチの2つがあり、さらに後者のアプローチは、企業全体の価値を求める方法と、直接株主価値を求める方法に分けられることは、連載第1回で説明したとおりです。また、そこでは、図表11-1(図表1)に示した各アプローチの背景にある考え方についても連載第1回で説明していますので、ご参照下さい。

 次回以降詳細に説明していくエンタプライズDCF法は、修正現在価値(APV)法などとともに、フローベースのアプローチの中で、企業のキャッシュフローに着目し、企業全体の価値を求める方法(図表11-1では、橙色のボックス②-1)に分類されます。また、マルチプル法の中では、EV/EBIT倍率、EV/EBITDA倍率が、この方法に分類されます。この方法では、まず負債と株主資本の価値を別々に求めるのではなく、合算した企業全体の価値を求めます。そして、株主資本の価値を求めたい場合には、負債の残高を差し引きます。

 実務で用いられているフローベースのアプローチに属する手法のうち、ほとんどは、エンタプライズDCF法で、それに加えてEV/EBITDA倍率などのマルチプル法(上場企業比較法)が併用されています。エンタプライズDCF法以外の図表11-1に記載した企業価値手法の中で、本連載でカバーしない修正現在価値(APV)法、エクイティDCF法、配当割引(DDM)法の詳細に興味のある読者は、参考文献として掲げたマッキンゼー・アンド・カンパニー [2016]の第8章、および第16章をご参照頂ければ幸いです。

2.エンタプライズDCF法とフリー・キャッシュフロー の関係
 
 エンタプライズDCF法においては、フリー・キャッシュフロー(または、営業フリー・キャッシュフロー)と呼ばれる企業の本業が稼ぎ出すキャッシュフローを、税引後WACC…



■鈴木 一功(すずき かずのり)
早稲田大学大学院経営管理研究科(早稲田大学ビジネススクール)教授
東京大学法学部卒業後、富士銀行入社。INSEAD(欧州経営大学院)MBA(経営学修士)、ロンドン大学(London Business School)金融経済学博士(Ph.D. in Finance)。M&A部門チーフアナリストとして、企業価値評価モデル開発等を担当の後、2001年から中央大学大学院国際会計研究科教授。2012年4月より現職。証券アナリストジャーナル編集委員、みずほ銀行コーポレート・アドバイザリー部のバリュエーション・アドバイザー。主な著書として『企業価値評価(入門編)』、『企業価値評価(実践編)』、『MBAゲーム理論』(いずれもダイヤモンド社)、他にコーポレート・ファイナンス、M&Aに関する論文多数。

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