[【投資ファンド】PEファンドの役割と企業価値向上の実際(カーライル・ジャパン)]

(2017/02/08)

【第1回】 10年後を見据えて ~プライベートエクイティー(PE)ファンドの効能~

 大塚 博行(カーライル・ジャパン・エルエルシー マネージングディレクター)
 斎藤 玄太(カーライル・ジャパン・エルエルシー ディレクター)

③資本政策

 会社永続のために高い成長率や利益率を目指すといっても、今までの巡航速度経営の延長では達成できず、大胆な経営の仕掛けが必要になることが多い。その大胆な仕掛けを行うためには、先行投資等のコスト増により短期的には利益率を犠牲にする必要が生じることもある。また当然のことながら、その実行において経営の難易度は上がる。大胆な仕掛けの例としては、海外事業展開の本格化、ビジネスモデルの転換、新規事業のスケールアップ、M&Aの実行などがあるが、PEファンドはそれらの仕掛けを行う経営陣の究極の実行におけるサポーターとなることが多い。また、その実行プロセスにおける短期的な利益犠牲などの「ノイズ」を許容出来る絶対的な資本家としての位置づけも提供することが出来る。

 このトライアングルの各構成項目を自身の力だけで成り立たせることへのハードルは、特に中堅企業では低くなく、実行力が発揮できない企業が散見されると考える。経営者の究極の経営目標を会社の永続性の構築と置くのであれば、3年から5年に渡り事業展開・組織/人材強化をサポートしながら絶対的な資本家として支えるPEファンドとの協働がその会社の経営者にとって選択肢となりえる。

大企業子会社とオーナー企業のジレンマ

 このトライアングルを考えたときに、それが整理されていない典型的な事例として、大企業グループの子会社のケースとオーナー企業のケースについて記載する。

トライアングルがうまく機能していない大企業グループの子会社のケース紹介

 大企業グループ内には、競争力はあるがグループの戦略上ノンコアと位置付けられている子会社が存在することが多い。そのような子会社は、安定的で適度な連結利益貢献と配当を親会社に対して行うことが期待される。仮に、子会社経営陣側に自社の業界における競争力を強化するための成長戦略があったとしても、その実行に必要な大胆な仕掛けを行うことを親会社に許容されないことが往々にしてある。また、そのような子会社では、親会社の受け皿的な人事政策が行われることも多く、戦略やアクション実行のための人材が不足することもよくある。その結果として、刻一刻と変わる厳しいグローバル競争の中でその子会社のその業界におけるポジショニングは弱くなり、連結利益貢献や企業価値も低下し、親会社として適切な子会社売却の機会を失ってしまうことをよく見かける。このようなケースは、親会社にとっても、子会社にとっても、ひいては日本経済にとっても大きな損失であると考えられる。

トライアングルがうまく機能していないオーナー企業のケース紹介

 日本にはオーナーの優れた才覚と強いリーダーシップにより大きな成長を遂げているオーナー企業が非常に多い。そのようなオーナー企業においては、オーナーの強いリーダーシップゆえに、オーナー社長を中心とした偏った経営人材の構成となっているケースがある。また、オーナー企業においては、オーナーの意向に伴う事業運営上の制約やオーナーが持つ強大な人事権を懸念して優秀な人材が集まらないケースが一般的に多いと言われる。資本面においても、オーナーが持分の多くを保有していることが多く、オーナーが高齢の場合には、相続対策などにより急な資本政策の必要性が生じ、結果として事業に悪影響が生じるケースもよく見られる。オーナーの次の世代においても、オーナー一人で支えてきたトライアングルを成り立たせ、企業の永続性が担保できるよう、次世代の成長に向けた事業戦略の構築と共に、オーナー一族内でのあるいはオーナー一族外への経営承継・資本承継の問題解決に早い段階から着手することが重要である。その対応が遅れれば、その優れた企業も競争力を失い光は消えていく。


カーライル・グループ

■筆者略歴
大塚博行(おおつか・ひろゆき)
早稲田大学商学部卒業/英国オックスフォード大学ヨーロッパ研究学修了。
1992年住友銀行(現三井住友銀行)に入行し9年間勤務。うち4年は住友銀行と大和SBCM(出向)にてM&Aアドバイザリー業務に従事。その間、投資銀行ラザードとM&Aにおける業務提携の実行/推進役を務め複数の協働案件に関与。2001年にカーライル・ジャパン・エルエルシーに移籍。日本のバイアウトチームにて産業界を担当。02年にラザードに移籍、ニューヨークと東京で勤務。複数のクロスボーダー/国内M&A案件に関与、約25件の成約案件。06年よりカーライル・ジャパン・エルエルシーに復帰し、現在はマネージング ディレクターとして、ジェネラル・インダストリー業界の責任者として従事。投資先の株式会社ツバキ・ナカシマ、シーバイエス株式会社(旧ディバーシー株式会社)、ウォルブロー株式会社、及びセンクシア株式会社(旧日立機材株式会社)の取締役を務め、また株式会社ディー・エヌ・エーの取締役に2015年6月より就任。過去にはチムニー株式会社(現在は東証一部上場)の取締役に従事。

 

斎藤玄太(さいとう・げんた)
東京大学法学部卒/米ニューヨーク大学にてLL.M.(法学修士号)取得/仏インシアード(INSEAD)にてMBA取得。弁護士・ニューヨーク州弁護士。
西村あさひ法律事務所(入所当時西村総合法律事務所)にて5年勤務。法的スキームの立案から最終契約書の作成に至るまで、大手金融機関や事業会社のM&A案件を手掛けるほか、コーポレートガバナンス、当局対応などの企業法務や巨額税務訴訟にも従事。2006年カーライル・ジャパン・エルエルシーに入社。現在ディレクターとしてヘルスケア業界、コンシューマー業界、テクノロジー業界の投資に注力。投資先の株式会社おやつカンパニー及び株式会社マネースクウェアHDの取締役を務め、過去にはAvanStrate株式会社の監査役及び株式会社ソラスト(現在は東証一部上場)の取締役に従事。
 

 

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