[マールインタビュー]

2013年5月号 223号

(2013/04/15)

No.156 独自の視点から財務会計システムに光を当て会計学の新たな知見と魅力を提示する

 星野 一郎 (広島大学大学院 社会科学研究科 教授)
  • A,B,EXコース

星野 一郎 (広島大学大学院社会科学研究科教授)

不正経理の不変性と普遍性

-- オリンパス事件など不正経理はなぜ繰り返し起きるのでしょうか。
「会計学の問題というよりも、人間、組織、社会の問題になるかもしれませんが、不正経理は人間の本性、金銭欲に起因しています。日本だけでなく米国でもエンロン事件などが起きています。不正経理は、お金や会社の歴史とともにあって、これからも未来永劫なくならないでしょう。語呂合わせ的には、不正経理には不変性と普遍性があるとも言えます。犯罪などと同様、完全に防止することは不可能です。不正経理や粉飾決算など会計不祥事が起きると、会計基準や監査のルールに原因の一端があるとされ、会計が悪い意味で脚光を浴びます。もちろん、こうした会計技術面での改善も必要ですが、人間の本性を十分に意識したうえで行うことが大切だと思っています」

-- 不正経理と人間の本性の関連について、もう少しお聞かせいただけますか。

「不正経理とは、一言でいうと、ルールに基づいて適正に算出された会計数値を自社に都合よく加工することです。実態よりもよく見せると、粉飾決算になります。粉飾の語源は化粧に由来すると言われます。人間は老若男女を問わず、自己をよく見せたい心情があるのは自然なことです。努力や研鑽によって向上するのが望ましいのですが、表面上の体裁を取り繕うこともあります。この点については、企業も同じです。基本的に経営成果をよりよく見せたいという願望がある。その点で粉飾決算的行動が宿命づけられていると言っても過言でありません。会計制度は、どちらかと言うと、基本的に経営者性善説に立っています。例えば、経理自由の原則もそうです。しかし、それを悪用すれば、表面上の体裁を容易に取り繕うことができるようになっています」

-- だからと言って、会計学者が防止を諦めてしまっていいのですか。

「会計に関わる者が努力するのは当然ですが、それには限界があります。会計基準や監査を厳格化しても、結局は『イタチごっこ』となってきた経緯があります。完全なルールは原理的にできませんし、また会計の世界だけで完璧を期すわけにはいきません。一時的に完璧な会計ルールができたとしても、それを遵守するあまり、企業活動を阻害し、資本市場の機能(効率性)を低下させてしまうようなことになれば、何のための会計ルールかということになってしまいます。この点をよく認識して、広い視点から防止策を検討することが大切です。例えば内部告発をもっとやり易くするとかですね。オリンパス事件のきっかけも一種の内部告発ですが、日本の企業風土では抵抗感があるし、告発者の保護システムも不十分です。金融当局、税務署、マスコミとの補完関係も必要です。さらに倫理観や宗教観と関連づけた議論も深める必要があると思っています」

企業結合会計基準の改正へ

-- オリンパス事件では、M&Aを悪用して不正経理が行われました。一つは非上場会社3社の買収で法外な企業価値を算定した点があります。
 

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