[業界動向「M&Aでみる日本の産業新地図」]

2017年8月号 274号

(2017/07/18)

第149回 人材サービス業界

労働者派遣法の「大改正」で競争激化

 編集部
  • A,B,EXコース

  2015年の大改正で労働者派遣事業の許可制への一本化など規制が強化されたことから、より体力のある人材会社が生き残り、中小事業者の淘汰が進むことが想定される。国内市場のシェア拡大や海外事業の拡大を巡って積極的なM&Aが展開されている人材サービス業界について、有力アナリストに現状と成長戦略を聞いた。

拡大傾向が続く人材需要


  人材サービス産業の過半を占める派遣事業について市場規模の推移を見ると、2001年に1兆9462億円であったものが04年の派遣法改正で製造派遣が解禁となり、それ以後、前年比20~40%増と急成長した。しかし、08年リーマンショック後に大きく減少、12年の派遣法改正後も減少が続いたが、13年に底を打ち、14年、15年は好転の兆しが見え始めている。ちなみに、15年の派遣市場売上高は5兆6790億円となっている。総務省によると17年5月の完全失業率(季節調整値)は前月より0.3ポイント上ったものの3.1%と低く、また厚生労働省が発表した同月の有効求人倍率(季節調整値)は前月から0.01ポイント高い1.49倍となっており、人材サービスに対する需要は全体として拡大傾向にある。

人材サービスに対する需要は全体として拡大傾向

労働者派遣法改定のインパクト

  日本における近代的な人材派遣ビジネスは、1966年に設立されたマンパワー・ジャパンが始まりといわれる。その後、テンプスタッフ(現パーソルホールディングス)が73年に設立されたのをはじめ、多くの国内系人材派遣会社が誕生した。しかし、当時は人材派遣が正式に法律で認められていたわけではなかった。労働者派遣法が成立したのは85年(86年施行)で、ここから日本における人材サービス事業の歴史が正式に始まったと言っていい。

  労働者派遣法上、人材派遣は「一般労働者派遣事業」と「特定労働者派遣事業」の2つに分類される。「一般労働者派遣事業」とは、事前に登録された派遣労働者の情報をもとに労使ニーズをマッチングさせ、派遣先企業と人材派遣事業者とが契約した派遣期間のみ人材派遣事業者が派遣労働者と契約を交わし派遣先企業に派遣するという業態で「登録型派遣事業」とも呼ばれる。他方、「特定労働者派遣事業」は、期間を決めずに派遣労働者を雇用し、派遣先企業の必要に応じて労働者を派遣するという業態で、「常用型派遣事業」とも呼ばれる。

  労働者派遣法はこれまで何度か改正が行われてきた。99年には対象業務の原則自由化、04年には製造派遣解禁が行われた。しかし、08年のリーマンショック以降、製造業を中心に“派遣切り”や“雇い止め”、さらに人材派遣をめぐる違法行為の発覚などが相次ぎ、若年層の貧困化、ワーキングプアの存在などが社会問題化したこともあって、12年10月施行の改正派遣法では日雇い派遣の原則禁止など、規制を強化する方向性が打ち出された。

  また、親会社グループ向け派遣は8割以下に限るという、いわゆる「専ら派遣」に対する規制も行われた。このため、グループ内派遣比率が高い企業は外販に向けた努力が求められることになったほか、規制のクリアが困難な企業グループでは直接雇用化や事業売却などの決断を迫られることになった。この規制は3月決算の企業の場合、14年3月期から適用されたが、15年4月にはパナソニックの連結子会社であるパナソニックビジネスサービス(14年3月期売上高203億円)の株式の66.5%をパソナグループが買収。また、同じパナソニックの子会社で、事務系派遣業界6位のパナソニックエクセルスタッフについては、パーソルホールディングス(以下パーソルHD)がパナソニックの持ち株の約66%を15年3月に取得するなど、大手企業の派遣子会社の事業譲受や買収に積極的な動きがみられた。

人材派遣のM&A件数の推移

  これに加えて、15年9月には86年の労働者派遣法施行以来の「大改正」が行われた。この改正では、「業務」単位での期間制限から、人に着目した「個人」単位と「派遣先」単位の期間制限に変更されたほか、派遣社員へのキャリアアップ措置の創設などが織り込まれたが、とりわけ業界にとって大きな影響が予想されるのが、派遣事業の届出制が廃止され許可制に一本化されることである。移行措置によって18年9月29日まで届出制による派遣事業所が認められており、それまでは許可制・届出制の事業所が併存することになるが、一般社団法人日本人材派遣協会によると、すでに15年には届出制による事業所数は1488カ所減少している。

今後の成長戦略とM&A

  人材サービス業界の今後の成長戦略について、日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門の手塚貞治・部長 プリンシパルは、今後の成長戦略についてこう語る。

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