[M&A戦略と会計・税務・財務]

2020年5月号 307号

(2020/04/15)

第153回 新型コロナウイルス感染症対応の経済対策と企業への影響

荒井 優美子(PwC税理士法人 タックス・ディレクター)
  • A,B,EXコース
1. 新型コロナウイルス感染症発生からこれまでの経緯

 2020年3月11日の、世界保健機関(WHO)による新型コロナウイルス感染症(以下、「コロナウイルス」)のパンデミック(世界的流行)宣言から、予想を超える感染拡大に、3月23日には「パンデミックが加速している」との認識が公表された。コロナウイルスの最初の感染は、2019年12月31日にWHOに報告され、2020年1月8日にWHOにより新型ウイルスと認定されたものの、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC( Public Health Emergency of International Concern))」には該当しないと」(1月24日のWHO緊急委員会の発表)とされ、その1週間後には、緊急事態に該当するとの認識に至っている。その後、6週間でパンデミック宣言となった状況から、他の感染症(SARS、MERS、インフルエンザ等)に比べてコロナウイルスの感染力や感染経路(無症状感染者による感染)に特異性があると考えられる。

 我が国では2020年1月15日のコロナウイルス発症(1月16日に厚生労働省より発表)を受け、新型コロナウイルス感染症対策本部の設置(2020年1月30日閣議決定)を始めとする、感染拡大阻止に向けた体制がいち早く整備されたこともあり(図表1参照))、欧米諸国に比して感染者数等は低い水準にある。

 一方で、欧州では、WHOによるコロナウイルスのパンデミック宣言前後より感染者数が急増し、今や欧州がコロナウイルスのパンデミックの「中心地」となり、流行がいつピークに達するかを知ることは不可能だとの警告がWHOから発表されるようになった。

 世界経済は、過去にも感染症(2002年のSARS、1968年の香港風邪、1958年のアジア風邪)による被害と回復を経験しており、いずれも1年前後の落ち込みの後にV字型の回復を成し遂げている(注1)。2008年のリーマンショックのような金融破綻の場合には、株式市場だけでも、2年から4年以上の期間を要している。コロナウイルスの経済への影響については、リーマンショックより影響が大きく、回復に数年かかる(2020年3月23日、OECDのアンヘル・グリア事務総長による警告)との認識や、少なくとも金融危機と同等もしくはそれを超える景気後退になり、2021年は経済の回復が見込まれるものの、そのためには各国が感染の予防や医療制度の強化を最優先に行う必要がある(2020年3月23日、IMFのゲオルギエワ専務理事による警告)という認識もあるが、感染の収束が全く予想できないということが、その背景にあると思われる。

【図表1 厚生労働省によるコロナウイルス対応】

1月28日新型コロナウイルスに係る厚生労働省電話相談窓口(コールセンター)の設置
2月3日事務連絡「新型コロナウイルス感染症に対応した医療体制について」を発出
2月4日新型コロナウイルス感染症の対応に関する全国衛生主管部(局)長会議の開催
2月25日新型コロナウイルス クラスター対策班の設置、「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」の決定
3月2日新型コロナウイルス感染症に係る小学校等の臨時休業等に伴う保護者の休暇取得支援
3月6日新型コロナウイルス感染症に係る雇用維持等に対する配慮について要請
3月23日職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた取り組みを要請
3月28日「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」の決定

【出所:厚生労働省 報道発表より】



2. コロナウイルスのパンデミック宣言以後の「コロナウイルス」に対する認識の変化

 コロナウイルスの感染拡大が欧米で本格化したことによる経済活動停止への懸念から、米国株式市場は3月9日にリーマンショック以来の下落に見舞われ、更にWHOのパンデミック宣言を受けて、世界同時株安がもたらされた。

 コロナウイルスの経済への影響については、欧州等への急激な感染拡大報道の前までは、「新型コロナの影響で対中輸出や訪日外国人の減少、サプライチェーン(供給網)の寸断など一時的な打撃は大きいが、終息すればなお衰えていない実需は戻るとの見立て」があり、「米株価が史上最大の下げ幅を記録するなど混乱の様子は12年前に通じるものの、当時と同規模で経済活動が縮むとの悲観論は広がっていない」(3月5日、日本経済新聞)というのが、大方の見方であった。しかしながら、その後の欧州での急激な感染拡大やイタリアにおける医療危機を受け、「政治指導者たちは新型コロナウイルスの脅威を過小評価していた」(3月18日、EUのウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長へのドイツ紙インタビュー)との認識に変わっている。

 即ち、世界が

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