[M&A戦略と会計・税務・財務]

2021年5月号 319号

(2021/04/15)

第164回 パンデミック下での企業経営と情報開示

荒井 優美子(PwC税理士法人 タックス・ディレクター)
  • A,B,EXコース
1. はじめに

 世界保健機関(WHO)による、新型コロナウイルス(以下、「新型コロナ」)のパンデミック(世界的流行)表明(2020年3月11日)から1年が経過し、3月決算法人はこれから6月にかけて開催される株主総会に向けて、決算の準備作業に入る。2021年3月期の企業情報開示では、パンデミック下の業績を数値化し、ポストコロナに向けた企業の経営方針や事業戦略を株主に対して表明することが求められる。

 有価証券報告書における財務情報及び記述情報の充実等に向け、平成31年(2019年)内閣府令第3号「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(以下、「改正開示府令」)が平成31年1月に施行されたが、この施行を受けて金融庁は2019年3月19日付で「記述情報の開示に関する原則」(以下、「開示原則」)を策定した。 

 改正開示府令の施行により、ガバナンス情報の拡充(①主要な経営指標等の推移、②コーポレート・ガバナンスの概要、③役員の状況、④役員の報酬等、⑤政策保有株式等)のための開示が、2019年3月期から、記述情報の充実(①経営方針、経営環境及び対処すべき課題等(経営戦略)、②事業等のリスク、③経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)、④財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針)、及び監査関係の情報の拡充(監査の状況)のための開示が、2020年3月期から義務付けられた(図表1参照)。

 新型コロナの企業経営への影響については、2020年3月期の有価証券報告書の記述情報として、開示を行った企業もある(経営戦略、事業等のリスク、MD&A)。2021年3月期は、新型コロナ関連のより詳細な記述情報の開示が必要と考えらえる。本稿では、パンデミック下での企業経営と財務情報の開示に係る論点について解説を行う。

【図表1 企業開示制度に係る改正の全体像】


2. 改正開示府令と開示原則

 記述情報の役割は、「財務情報を補完し、投資家による適切な投資判断を可能とする。また、記述情報が開示されることにより、投資家と企業との建設的な対話が促進され、企業の経営の質を高めることができる。このため、記述情報の開示は、企業が持続的に企業価値を向上させる観点からも重要である。」(開示原則「 I. 総論 1-1」)と考えられている(図表2参照)。 将来の事業環境の不確実性が過去に例がないほど高いパンデミック下では、経営者の視点を投資家と共有することにより、経営の説明責任を果たすものと言える。

 改正開示府令により開示が義務付けられる記述情報では、

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