[産業構造の変化に対応するM&Aの実務]

2014年2月特大号 232号

(2014/01/15)

第20回 日本企業は海外でどのように事業を展開していくのか - 事業計画の策定について-

 島田 英海(EYトランザクション・アドバイザリー・サービス ディレクター)
  • A,B,EXコース

  日本企業の海外進出熱は新興国を中心に年々高まっています。海外M&Aはここ数年、金額ベースでは国内M&Aを大きく上回る状況が続いています。海外M&A・ジョイントベンチャー・新会社設立を通じて、日本企業は海外市場でどのように事業を展開していくのでしょうか。今回は、海外で新規事業を立ち上げるために不可欠な事業計画に焦点を当てて、そのポイントを考えてみましょう。

1. はじめに

  日本企業の海外進出、特に新興国への参入意欲は高まっています。In-Out型のM&Aは、金額ベースで年間6兆円から8兆円の市場規模となっており、In-In型のM&Aの2兆円から4兆円の市場規模を大きく上回る状況が続いています。一方、M&A件数でみると、In-Out型は毎年400件から600件程度のM&Aがアナウンスされていますが、In-In型のM&Aは1500件から2000件の範囲で、海外M&Aの件数はまだ少ないのが現状です。しかしながら、日本企業が海外に進出する場合、必ずしもM&Aとは限りません。進出の方法は、その目的と段階に応じて様々な形態が考えられます。

<海外進出の形態>
・駐在事務所を設置して現地調査を行う
・ゼロから新会社を設立して事業を始める
・現地企業と業務提携を結び販売や生産を委託する
・現地企業との合弁会社へ出資する
・現地企業の株式の一部を取得する
・現地企業を買収し、経営に参画する

  今回は、「ゼロから新会社を設立して事業を始める」ことを前提として、事業計画に必要なポイントを検討したいと思います。新会社を設立することは、多くの努力と時間を要し、入念な事前調査と計画が必要となります。その反面、現地企業の既存の事業基盤に依存しないため、自社の強みを活かした戦略で事業を展開することが可能になるメリットがあると言えます。

2. 新会社設立の事業計画

  それでは、新会社設立に必要な計画について、新興国への参入意欲が高く、大きな設備投資を必要としないサービス業を例に取って、以下の4点に絞って検討課題を整理してみましょう。

(1) なぜ新会社設立が必要なのか
(2) どのようにビジネスを展開していくか
(3) 具体的な進出計画はどのようなものか
(4) 海外進出で課題となることは何か

(1) なぜ新会社設立が必要なのか
  自社の事業戦略において、その国に進出する理由や新会社を設立する必要性について検討します。その際には、その国の市場や競合先をどのように見ているのか、参入障壁と規制についての理解、そして、今後の需要の見通しなどの項目を網羅する必要があります。現地での新会社設立に際して、目的を明確にし、自社内での合意を得るベースとなるものです。

<なぜ会社設立が必要なのか>

市場環境 対象国の過去の対象市場を見ると毎年2桁の伸びを示しており、都市部から地方へ、高所得層から中間所得層へと市場は拡大。自社のマザーマーケットである日本市場は維持しつつも縮小傾向であるため、新市場の開拓が急務
競合環境 競合先は現地企業中心ではあるが、上位のシェアは小さい。外資企業の寡占状態となる前には早期に参入することで、先行者利益が見込まれる。適正な価格のもとでリピーターを獲得し、競争上の優位性を確保
参入障壁と規制 出資比率の外資参入規制があり、現地法人の設立には当局の認可が必要で、ここ数年は欧米企業の参入が続く。参入要件を満たしてから、認可に数カ月を要するが、ガバナンス体制構築に留意が必要
今後の需要の見通しとマーケティング 今後の需要は拡大が見込まれるが、低価格への対応、主要顧客向けのサービス向上、付加価値サービスの提供などに対応。マーケティングは、潜在的需要の掘り起こしを主眼とし、自社サービスとブランドの強みをアピール
新会社設立の目的 対象市場の需要の発掘や顧客の利便性の向上が見込まれる。自社としては、新会社を設立し、現地化を推進することで中期経営計画のグローバル化の目標達成

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