[M&A戦略と法務]

2021年5月号 319号

(2021/04/15)

ライフサイエンス関連企業に対する知的財産デューデリジェンスの留意点

小川 聡(TMI総合法律事務所 弁護士)
山田 拓(TMI総合法律事務所 弁理士)
  • A,B,EXコース
1. はじめに

 本稿は、ライフサイエンス関連企業に対する法務デューデリジェンスのうち、知的財産デューデリジェンス(以下「知財DD」という)の留意点について述べるものである。

 M&Aの対象となる企業の価値を把握する上で、知的財産の位置づけは業界によって大きく異なるため、全ての業界において知財DDが必須ではない。しかしながら、研究開発段階にあって将来的に利益を生み出すことが期待される製品や技術に会社の価値が見いだされるライフサイエンス関連企業は、以下の特徴を有するため、知的財産が事業に与える影響が大きく、知財DDの実施が不可欠である。

(ア) 医薬品開発では、研究開発期間が基礎研究段階から承認取得に至るまで長期間を要し、相当規模の研究開発投資が必要となる。研究開発費を回収できるよう、製品開発に成功した際の知的財産による独占権を確保する必要性が高い。
(イ) 一つの製品を保護する特許が、基本特許に加えて数件の周辺特許と極めて少ない場合が多いため、特許が当該製品に対して有する重要性が相対的に高い。
(ウ) 一社で研究開発から販売までの全てを行うことは難しく、アライアンスが重要な業界であることから、事業に必須のライセンス契約や共同研究開発契約が締結されていることが多い。
(エ) ライセンスや共同研究開発等において大学等のアカデミアと連携(産学連携)する場合が多く、また、アカデミアに帰属する研究成果や所属する人材がライフサイエンス関連企業の創業に直接関わり、利益相反問題や早期の論文公表の問題等、アカデミアとの連携特有の問題が生じることが多い。
(オ) 公的機関等との連携(産官連携)により、研究開発のための資金を調達していることが多い。
(カ) 医薬品等のライフサイエンス関連製品は、人の身体・生命に関わるものであることから、薬機法(旧・薬事法)、再生医療関連法その他の法律により、研究開発、生産、販売が厳しく規制されており、知的財産だけの問題ではないものの、原料調達から製品の販売に至るまで周辺規制に配慮する必要がある。

 このような特殊性を有するため、ライフサイエンス関連企業に対してM&Aを行う場合には、対象会社の事業の優位性・独占性を確保し得る技術は何か、また、その技術が知的財産権により適切に保護されているかといった点を、ライフサイエンス分野に係る知的財産を専門とする弁護士、弁理士等の専門家により、知財DDが重点的に実施されるのが通例である。

 以下では、ライフサイエンス関連企業に対して知財DDを実施する際の実務上の留意点を中心に述べる。なお、知財DDにおいてリスクが発見された場合の対応策(変更契約の締結や株式譲渡契約における対応等)については、本稿の対象外とする。


2. 知財DD総論

(1) 知財DDの対象範囲の確定

 まず、対象会社の事業を説明する初期的な資料や、対象会社とのインタビュー等を通じて、対象会社の事業の全容を把握する(注1)。その中から、対象会社の中核を為す事業や買い手企業が興味を有する事業を抽出し、知財DDの対象となる事業を確定する。

 次に、

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