[M&A戦略と法務]

2013年6月号 224号

(2013/05/15)

買収検討段階から考える買収後の海外買収先企業のガバナンス問題

 中川 秀宣(TMI総合法律事務所 弁護士)
  • A,B,EXコース

海外M&Aの成否を分ける要素は何か?

1. 問題意識の変化(なぜ今PMIの重要性が言われるか)
 昨今のインアウト(アウトバウンド)のM&Aの増加に伴い買収先企業のガバナンスのあり方が脚光を浴びている。以前に比べ、デューディリジェンス(DD)の仕方、アドバイザー(FA、コンサル、会計事務所、法律事務所等)の起用方法、バリュエーション等の進化、さらに事業の切り分けや業務移管の技術的手法の進化等が見られ、日本企業もM&Aに慣れてきた。その結果、相応のプレミアムを超えて高値掴みをさせられたから失敗したのではないかとか、事業の切り分けや業務移管の見込み違いや、クロージングまでに一部ある企業活動の是正なり違反状態の改善をさせようとしたことが想定外の波及効果をもたらしたから失敗したのではないかといった、近時のポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)の議論の前段階で議論されていた問題意識は後退した。その分、近時のPMIでは買収後のマネジメントやガバナンスの巧拙といった点に意識が向かうようになったと評価できる。積極的に海外に進出しようとしたが海外の買収先を上手く経営できず、結果としてシナジーを出せないどころか従業員の離反やコンプライアンス違反等に悩まされ、買収先の企業価値の劣化という煮え湯を飲むこととになった日本企業の例は以前から多々ある。その一方で買収先の経営に成功した例もある。本稿は、その差を分けたものは偶然とPMIの経験の差であると短絡的に整理できるものであろうかという問題意識から考察を加えるものである。

2. 資産買収と事業買収は違う
 本誌の読者の方には常識であろうが、買収といっても、何の目的で買収を行うのかによって、例えば資産買収なのか事業買収なのかと区分けするだけでも、ストーリーは大きく異なる。資産を買う場合には、既に一定のオペレーションやマネジメントはあたかも外部委託されているpassive investmentかの如くマネジメントとガバナンスの仕組みが確立されており、反射的に将来価値が人に依存する度合いは低いから、資産価値を主に見ていれば大きな失敗はしないことが予想される。他の会社を買う場合でも、その会社の事業内容によっては資産買収に近い場合もあろう。これに対して、資産買収と対比されるべきビジネス(事業)を買う場合とは、人を含む組織体を承継する場合である。事業は、ビジネスモデルそのものではなく、ビジネスモデルを実践し改良・発展させ、また実践する人を含む組織体である。事業は人が人をマネージし、人がオペレーションを行うという、人の活動と密接不可分のものであり、マネージする側もマネージされる側も人であり、したがって、事業買収では、事業価値を創り維持しているのは人であって将来価値を伸ばすも減らすも人であるという事実を前提として、買った後に買収先の役職員や場合によっては下請け先の役職員がどう反応するかを先読みしつつ、買収を検討し進めていく必要がある。

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