[M&A戦略と法務]

2013年11月号 229号

(2013/10/15)

コンテンツ企業のM&Aにおける著作権デューデリジェンスの留意点

 水戸 重之(TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士)
 太田 知成(TMI総合法律事務所 アソシエイト 弁護士)
  • A,B,EXコース

◆はじめに

  本稿は、コンテンツ企業のM&Aにおける法務デューデリジェンスのうち、著作権デューデリジェンス(以下「著作権DD」という。)の留意点について述べるものである。本稿における著作権DDとは、著作権の有無の他、著作権関連契約(製作委託契約、利用許諾契約)等の重要契約についての契約デューデリジェンス(以下「契約DD」という。)も含むものとする。

  「コンテンツ」とは、一般に、文字(文章)、絵画、画像、映像(映画)、アニメーション、音楽、ゲームソフト、アプリ、情報、データ等をいい、「コンテンツ企業」とは、かかるコンテンツの製作又は仕入れ(買付けやライセンス)、配給又は販売、利用許諾を行うことで対価を得ている企業ということができる。本稿においては、紙幅の都合もあり、映画製作会社のM&Aを念頭に論を進める。ちなみに、コンピュータゲームソフトは判例上、(プログラムの著作物であるとともに)映画の著作物に該当するとされており、本稿の内容はゲーム制作会社のM&Aにもほぼあてはまる。

  コンテンツ企業の法務DDの重点ポイントとしては、次の諸点を挙げることができる。

① コンテンツにかかわる著作権、商標権等の知的財産権がどの程度確保できるかを確認する。特にコンテンツビジネスのバックボーンとも言うべき「著作権」が重要である。M&Aの狙いが過去作品の確保にある場合、特に重要である。

② 業務委託契約(請負契約)とライセンス契約(権利の利用許諾契約)が重要な契約であり、その内容と、それがM&Aによりどのような影響を受けるか、M&Aの目的と合致するか(障害とならないか)を確認する。

③ 経営者、プロデューサー、クリエイター等のコンテンツビジネスに精通した人的資産(及びその有する人的ネットワーク)が重要な資産であり、それがM&A後も変更なく保持できるかを確認する。M&Aの狙いが現在及び将来の制作・配給能力の取得にある場合、特に重要である。

④ コンテンツ制作業の場合、下請け体質、労務環境の劣悪性及び契約書の不備(不存在)が見られることが多いので、リスクファクターとして十分確認する。

本稿では、①及び②について論じる。

I.著作権DDのポイント

  著作権DDのポイントは、対象会社が、M&Aの目的となる著作権を保有しているかの確認となるが、これらは、①作品及び問題となる権利対象物の特定(著作物の特定の場面)、②当該著作物における著作者・著作権者が誰かの確認(著作者・著作権者の確認の場面)、③仮に著作権を保有しない場合には利用権の有無の確認(利用権の有無の確認の場面)及び④当該権利(著作権・利用権)の内容の確認(著作権の内容、制限の確認の場面)とに分けられる。(なお著作権隣接権も同様に問題となるが、本稿では紙幅の都合上割愛した。)

  すなわち、①においては、対象会社において調査の対象とすべき著作物は何かの特定が重要であり、②においては、当該著作物の著作者はそもそも誰か、また、対象会社がその著作権を有しているか否か確認することとなる。③仮に、対象会社が著作権を保有していない場合は、ライセンス契約等で利用権が確保できているかを確認することとなる。更に、④においては、著作権や利用権を有する場合に、M&Aの目的との関係で十分な権利内容が確保されているか(当該著作物の保護期間、第三者へのライセンスの有無)の確認を行うこととなる。

  いずれにせよ、著作権DDの主な関心事が対象会社の保有する過去作品にある場合、対象会社に対して、過去作品に関する情報の一覧(以下「作品リスト」という。)の提出を求めることから始まる。

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