[M&A戦略と法務]

2018年7月号 285号

(2018/06/15)

資本業務提携と株式の発行者・保有者との関係に関する開示

~政策保有株式を巡る議論の中で~

髙原 達広(TMI総合法律事務所 弁護士)
  • A,B,EXコース
一 はじめに

 株式会社東京証券取引所が、「スチュアードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下「フォローアップ会議」という。)の提言を踏まえて、平成30年3月30日に公表した「フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」では、政策保有株式のあり方に関して、かなり踏み込んだ形で、コーポレートガバナンス・コード(以下「ガバナンス・コード」という。)を改訂する方向性での提案がなされている。(注1)この改訂案は平成30年4月29日までパブリック・コメント手続に付されており、東京証券取引所は、平成30年6月を目途に所要の上場制度の見直しを行うとしている。

 本稿執筆時点では、パブリック・コメントの結果と最終的な改訂の方向性までは確認できていないが、改訂案は、M&Aの一手法である、他社の株式保有を通じて、事業の協働や取引関係の構築と強化を図るという資本業務提携のあり方にも少なからぬ影響を与えると想定される。

 この点、日本経済団体連合会からは、「政策保有株式の中には、相互に株式を持ち合うことにより提携深化や取引拡大を図ることを相互に意図し、企業価値の向上を目指すもの(いわゆる「資本提携」)もある。こうした政策保有株式の中には、当事者間の合意や契約により、その売却が提携や取引関係の縮減につながることが前提となっている場合もある。こうした企業間の関係のあり方が阻害されないよう、補充原則1-4①、ガイドライン案4-3の文言について、削除も含め見直すことが適切である。」との意見が公表されている。(注2)

 削除の要請がなされているガバナンス・コードの改訂案の補充原則1-4①とは、「上場会社は、自社の株式を政策保有株式として保有している会社(政策保有株主)からその株式の売却等の意向が示された場合には、取引の縮減を示唆することなどにより、売却等を妨げるべきではない。」との内容であり、ガイドライン案4-3とは、金融庁が平成30年3月30日に公表した「投資家と企業の対話ガイドライン(案)」4-3を指しており(注3)、その内容は、「自社の株式を政策保有株式として保有している企業(政策保有株主)から当該株式の売却等の意向が示された場合、取引の縮減を示唆することなどにより、売却等を妨げていないか。」となっている。

 逆に、フォローアップ会議の中では、機関投資家側に立つ委員から、資本提携に関し、仮に株式保有と取引関係が関連性を有するのであれば、ガバナンス・コードの「原則1-7 関連当事者間の取引」において示されている「上場会社がその役員や主要株主等との取引(関連当事者間の取引)を行う場合には、そうした取引が会社や株主共同の利益を害することのないよう、また、そうした懸念を惹起することのないよう、取締役会は、あらかじめ、取引の重要性やその性質に応じた適切な手続を定めてその枠組みを開示するとともに、その手続を踏まえた監視(取引の承認を含む)を行うべきである。」との項目に従って取り扱うべきことや、有価証券報告書の中で「経営上の重要な契約等」としての開示がなされるべきではないかとの意見も示されている。(注4)

 現在の規制枠組みの中では、

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