[M&A戦略と法務]

2018年8月号 286号

(2018/07/17)

大学の統合・再編を巡る近時の議論・実務の動向

渡辺 伸行(TMI総合法律事務所 弁護士)
  • A,B,EXコース
1.大学をめぐる環境

 18歳人口の減少は、多くの大学の経営業績に影響を与えており、特に地方所在の中小規模の大学は、若者の都市部流出なども相俟って、とりわけ大きな影響を受けている。日本における18歳人口は、平成33年(2021年)頃からさらに減少し、平成40年代には18歳人口が100万人を下回る見込みとされ(注1)、かかる18歳人口の急減期を迎えるにあたり、各大学の経営力を強化し、教育と研究の質を向上させる仕組みが求められている。このような背景のもと、近時、「国公私立大学の枠を超えた経営統合や再編」が提唱され(注2)、政府においても、1つの国立大学法人による複数大学の設置(いわゆるアンブレラ方式)や、私立大学における学部・学科単位での設置者変更(学部単位等での事業譲渡)を容認する方向での法改正が検討されているところである。


2.大学のM&A手法(現行制度)

(1) 学校法人

 現行の私立学校法においては、私立大学を設置する学校法⼈を対象とするM&Aの⼿法として、①合併、②分離(設置者の変更)及び③理事の交替がある(詳細は別稿(下江毅「学校法⼈によるM&A⼿法とその実務」MARR 2011年10⽉号渡辺伸行「学校法⼈を対象とするM&A 〜理事の交替の⼿法を中⼼に」MARR2014年4⽉号)参照)。

吸収合併

(ア)合併とは、2以上の学校法⼈が1つの学校法⼈に統合するものである(図1)。合併には、合併によって既存の学校法⼈が消滅し新たな学校法⼈を設⽴する新設合併と、1つの学校法⼈が他の学校法⼈を吸収して存続し他の学校法⼈が消滅する吸収合併がある。合併によって消滅する学校法⼈の権利義務は、新設法⼈⼜は吸収法⼈(存続法⼈)が承継する(私⽴学校法56条)。合併を⾏うためには、理事の3分の2以上の同意(同法52条1項)、評議員会の意⾒聴取(同法42条1項4号)、所轄庁の認可(同法52条2項)、債権者保護⼿続(同法53条2項、54条)、登記(同法57条)が必要となる。

分離(設置者変更)※既存の学校法人が承継する場合

(イ)分離(設置者の変更)とは、学校法⼈が設置する⼀部の学校(私立大学)を他の既存の学校法⼈⼜は新たに設⽴される学校法⼈に譲渡することである(図2)。譲渡する側の学校法⼈においては設置者の変更に伴う寄附⾏為の変更(私⽴学校法42条1項3号)が必要となり、評議員会の意⾒聴取(同法42条1項)や所轄庁の認可(同法45条1項)が必要となる。既存の学校法⼈が譲り受ける場合には同じく設置者変更の⼿続が必要となり、譲り受ける側の学校法⼈を新設する場合は設⽴認可(私学法30条1項、31条)の⼿続が必要となる。学校⾃体は法⼈格をもたず、施設・設備や教職員からなる教育施設にすぎないため、学校法⼈の分離(設置者の変更)の法的性質は、学校(私立大学)の経営に必要な施設等の個々の資産、負債及び契約の特定承継(個別承継)であると解される。


(ウ)理事の交替とは、

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