[ポストM&A戦略]

2014年12月号 242号

(2014/11/15)

第72回 組織・人事における効果的な売却アプローチ(下)

 竹田 年朗(マーサー ジャパン グローバルM&Aコンサルティング プリンシパル)
  • A,B,EXコース

  クロスボーダーの売却についての連載最終回では、前回解説した売却のガイドラインを受けて、いかに売却を最適に執行するかについて解説することとする。
  作成したガイドラインが優れていれば、ガイドラインが想定する範囲内で適切に執行できることが期待される。一方、ディールにおける自社の交渉ポジションが弱ければ、最終着地点が想定範囲に収まるとは限らないので、その分の対策が必要になる。
  なお、執行段階に入ればチーム編成やその運営の仕組みも変わってくるので、予め準備が必要になる。また、ディールの前面に出て買い手と直接向き合う役回りを持つ経営層とは、お互いどんなに忙しくても、イベントごとに事前打ち合わせをきちんと行う必要がある。

売却の最適執行

  連載前回では、個別具体的な売却活動に入る前の売却のガイドライン策定について解説した。図では、Step 1とStep 2がこれにあたる。今回は、売却のガイドラインを受け、Step 3からStep 5 にかけてどのように売却の最適執行を行うかについて説明する。

(図)売却のステップとタスク(アセットディールを想定)

Step 3:売却先の選定

  どの程度フォーマルなオークションプロセスを踏むかにもよるが、一般的に、対外的な売却プロセスはTeaser(ティーザー:興味を引くための広告資料)を配って売却案件を広くマーケティングすることから始まる。売り手は関心を寄せてきた買い手候補とNDA (Non-Disclosure Agreement、秘密保持契約書)を結び、情報を段階的に開示していく。
  最初は、売り手がIM(Information Memorandum)にハイレベルな情報を記載して提供する。これを受けて、買い手候補が意向表明書などで想定価格その他の条件を売り手に提示し、売り手はその提示内容を吟味して、買い手候補を絞り込むことが多い。
  次いで、売り手は絞り込んだ買い手候補をDD(Due Diligence、デューデリジェンス)のプロセスに進める。DDでは、詳しい情報が追加で提供される。DDは通常、数週間程度行うので、買い手候補から見ると、VDR(Virtual Data Room)が開いた時から開示されている情報もある一方で、DDの後半、あるいは終了間際になって初めて、開示される情報もある。
   VDRへの情報開示に加えて、売り手と買い手の質疑応答のプロセス、さらには後述するマネジメントプレゼンテーションなどの場で、売り手は何らかの情報開示を行ったり、質問に対する回答を行ったりすることもできる。その回答内容の証左となるドキュメントやデータについては、後追いでVDRに開示することもあれば、行わないこともある。
  これらの開示の可否、開示のタイミングの判断は、もちろん売り手が戦略的に行っていることである。
  売却プロセス中で開示した情報や質問への回答については、売り手はDA(Definitive Agreement、最終契約書)締結の段階で、その内容が適切なものであることを誓約させられるのが通常である。買い手候補はそれをベースに意思決定をするのであるから、当然と言えば当然のことなのだが、要するに、売り手は間違ってもいい加減なことは言えない。
  かといって、慎重になるあまり十分に情報を開示しないのでは、いくら買い手候補の要求にすべて応える必要はないとはいえ、情報開示しないことによって売却に悪い影響が出る恐れもある。
  言い換えれば、売り手はどこまでの情報を開示し、どこから先は開示しないのか、また、開示するならばいつ、どのような条件が揃った時に開示するのか、事前に手順を決めておかなければならない。売却の目的関数は、「高値で」「期限内に」「後腐れなく」「売り手の業務負荷も軽くなるように」であるから、これらを最適に充足するように、魅力的な買い手候補を引き寄せ、絡め取る方法を、工夫する必要がある。

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事