[ポストM&A戦略]

2016年12月号 266号

(2016/11/15)

第96回 人事部門の早期巻き込みと円滑なディールプロセスの実現(上)

 竹田 年朗(マーサー ジャパン グローバルM&Aコンサルティング パートナー)
  • A,B,EXコース

  M&Aでは、デューデリジェンス(DD:Due Diligence)の結果を踏まえて最終契約書(DA:Definitive Agreement)の交渉を行い、合意に至れば契約書の調印(いわゆるサイニング)に至る。ただし、DDには、費用も、人材も、エネルギーも、時間も、少なからぬものを投入するので、「この先調査して、詰めて、交渉すれば、お互いよしとする範囲で合意できそうだ」という感触(あるいは確信)が持てるまでは、DDには入れない。結局は、無駄になる可能性が高いからである。
  つまり、「本当にサイニングに至るかどうかは、DDの結果次第」という留保は付くものの、DDに入るときには、「この範囲で合意することを目指してDDを行う」というお互いの了解があるのが普通である。
  今回からは、ディールの上流工程で具体的に踏み込んで検討しておけば、後工程の大きな苦労を軽減できたのではないか、という組織・人事のポイントについて、解説する。
• 買収先経営者のリテンション方針(今回)
• 多拠点にわたるカーブアウト(次回)
• 売却案件(次回)

買収先経営者のリテンション方針

  買収先の経営者に対して、買収後の一定期間、継続して勤務してほしい、と考えることは珍しくない。なぜかというと、こちらが残ってほしいと思っているのに、「悪いけれど辞めます」と言われたのでは、慌てて交代人材を探さなければならないからである。さらに、良い人材がタイムリーに見つかる保証も、また見つかったとしてもうまく機能する保証も、ないといえばないからである。
  そのような場合は、「買収後も辞めずに会社に残って、少なくともこれこれの期間、経営しませんか」ということを買い手が本人に伝え、併せて適切な条件をオファーする。これが、買収先経営者のリテンション(Retention)である。一旦そうしておいて、将来この人が交代する時のリスクが下がるように、ひいては買い手が交代させたいと思ったときには支障なくそうできるように、買収後に間髪を置かずきちんと手を打っていく。未来永劫にわたって本人をリテインすることなど、ありえないからである。
  さて、本稿で取り上げるケースは、買収先経営者、特にそのへそとなる人物(典型的にはCEO)が、客観的に見て「非常に」退職しやすい状況にあるにもかかわらず、買い手はそのCEOを「中期にわたって」「絶対に」リテインしたいと考えている場合である。これらの「 」がすべてつくと、リテンションの難度が大きく跳ね上がる。以下に順を追って説明する。

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