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[ポストM&A戦略]

2018年6月号 284号

(2018/05/17)

第114回 日本事業の海外統合

竹田 年朗(マーサー ジャパン グローバルM&Aコンサルティング パートナー)
 M&Aでは、既存事業の成長と構造改革を加速するため、同一あるいは近傍(Adjacency)の事業を買収対象とすることが多い。このため買収後は、当初の考えの通り、既存事業と買収先を、何らかの形で統合する必要が生じる。問題は、その統合をいつ、どのように行うかである。
 中には、買収先の方が既存事業よりも、事業として「格上」のケースもある。この場合は、格上の買収先に格下の既存事業を統合し、仕事の仕方その他を合わせる方向で考えるのが、一般に筋が良い。
 では、既存事業が日本にあり(以下「日本事業」)、格上の買収先が海外にある(以下「海外事業」)場合はどうなるかというと、買収した海外事業に日本事業を統合する、という帰結となる。すると、「理屈は分かるが、実際のところどう整理したらよいのか」「こっちが買収したのに、本当にそうしなければならないのか」という慎重な、あるいは否定的な反応が出たり、一度は了解された議論が再燃したりして、統合が道半ばのまま、相当の時間が経過しているケースも散見される。
 今回は、買収した海外事業に、既存の日本事業を組み込む際の論点整理を試みる。


「格上」の海外事業の買収

 買収先の事業が「格上」であるとは、事業規模、収益性、製品・サービスの内容、顧客基盤、経営の仕組み、組織能力、経営者の実力、従業員の資質など、買収した海外事業が買い手の国内事業をトータルで凌駕する、という意味である。企業レベルで小が大を呑むようなM&Aもあるが、多くのM&Aは企業レベルでは買い手が格上である。ここで述べているのは、買収先の事業に対応する買い手の事業よりも、買収先の事業が格上ということである。
 この場合、買い手の日本事業が格下なので、これを格上の海外事業に組み込むのが通常の考えの道筋である。日本側が買収したからといって、格下の日本事業に格上の海外事業を合わせたのでは、買収で折角手に入れた競争力も人材も失われる公算が強い。
 買い手にすでに海外事業があるケース、あるいは買収先に日本拠点が含まれているケースは、昨今珍しくない。すると、既存の海外事業と今回買収した海外事業の統合も、既存の国内事業と今回買収した国内事業の統合も課題となる。しかし、本来統合とは、正しい問題意識をもち、適切なアプローチを採れば、一定期間のうちに必ず実施できる性質のものである(例えば、本連載第77‐79回「PMI再考:海外買収先のグループ統合()()()」参照)。
 これに対して、既存の日本事業と格上の海外事業の統合には、買い手の日本の本丸(の一部)を、海外買収先に差し出すような話であるだけに、気持ちの問題も含む別の難しさがある。
 以下、話が無用に複雑にならぬように、海外事業間の統合も、日本事業間の統合もすでに完了し、日本事業を格上の海外事業に組み込むことだけが残っていると想定して、説明を続ける。また、買い手には、営む事業がほかにもあることが多いが、図にはほかの事業の存在はいちいち示さないことにする。


統合の基本設計と詳細設計

 クロージング後は、買収先に対するコントロール(ガバナンス)をいち早く確立しなければ、統合はおろか、満足のいく業績を単体で上げることも難しくなる。このことは、本連載で切り口を変えて何度も取り上げてきた(例えば、本連載第41回「M&A人事三権の確立」第84回「100%子会社のガバナンス設計」第100回「レポーティングラインと可視化ライン」参照)。本稿では、買収先に対するコントロールを確立してなお難しさの残る、日本事業と海外事業の統合に焦点を当てる。
 統合には、しっかりとした準備が必要だ。統合は高度で複雑な施策であるため、統合のコントロール(ガバナンス)と統合のマネジメント(計画・実行)の2段階に分けて考え、それぞれ適材を充てて実施するのが通常である(図1)。例えば建造物の設計には基本設計と詳細設計があり、詳細設計なしに建造物は建たず、また基本設計なしに詳細設計を行ったのでは効率が悪く、出来上がりの品質も担保できない。商品でも、ITシステムでも、ビジネスモデルでも、社会の仕組みでも、およそ「設計(デザイン)」と呼ばれるものはそうであり、それが統合にも当てはまる。

統合における役割分担

 期待役割が違えば、求められる人材要件も違う。計画・実行側の実行トップが「一流プロ」でなければならないのに対し、コントロール役はその一流プロをうまく使う「プロ使い」でなければならない。どの一流プロを起用するか、決めるのはもちろんプロ使いである。プロ使いは、原則として買い手側の人材、つまり「身内」である。
 このプロ使いという人材には、もともと一流プロであったのが長じてプロ使いに転じるケースと、プロ使いとしてキャリアを積み、長じて一流プロを使うようになるケースがある。事業家を使って成功する一流の投資家が、事業家出身のことも、そうでないこともあるのと、例えて言えば同じである。
 一方、計画・実行側の実行トップが一流プロでなければならないのは、ひとえにこれから成し遂げる統合が容易ならざることだからである。図1の人材要件に示したように、日本事業と海外事業の統合では、1) 事業、2) グローバル、3) 組織改革(統合とは組織改革の一類型)の3つの分野で高い実力が求められる。この3つを相当程度兼ね備えるからこそ、統合後の競争力ある企業の要件を見出し、組織の下部構造の重要な部分に至るまでグローバルに見通し、また自らがそこに至る道筋を具体的に描き、その進捗・実現に目を光らせることができる。
 その詳細設計の一端を表現したのが、図2である。左の各国分散モデルとは、事業の単位は国であり、各国で競争力を涵養するものである。このため、各国(図では簡素化して2カ国)にフルセットの機能を備えた拠点を置くモデルである。これに対して、右のグローバルモデルとは、事業の競争力をグローバルで生み出し、それを支える部門や機能も中核部分はグローバルにあって、それを各国で展開するモデルである。
 ところが、

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