[書評]

2014年9月号 239号

(2014/08/15)

今月の一冊 『新・現代会計入門』

 伊藤 邦雄 著/日本経済新聞出版社/3500円(本体)

今月の一冊 『新・現代会計入門』伊藤 邦雄著/日本経済新聞出版社/3500円(本体)  著者はちょうど20年前に『ゼミナール現代会計入門』を著した。20年という節目に基本コンセプトを維持しながら、改題して新たな出発を期したと言う。この間、金融ビッグバン、会計不祥事、金融危機、国際会計基準(IFRS)とのコンバージェンスなどがあり、日本の企業会計は大きく変化している。一方、日本企業もグローバル化の進展などでダイナミックに動いている。会計知識が英語やITと並びビジネスマンにとって三種の神器とも言われる時代になった今、本書で会計の最新の知識を充電するのもよいだろう。

  会計とは何か。企業やその中で働く人々の活動を一定の仕組みに従って数値(貨幣額)に写し取る行為だと言う。会計システムがなければ、私たちは企業の活動を把握することも伝達することもできない。人間社会に言語が必要なように、企業社会には会計が必要で、会計は「事業の言語」なのだ。

  本書は「入門」とあるから、会計の基礎も学べる。収益や費用、費用収益対応の原則、流動資産と固定資産の分類、取得原価主義、時価・公正価値評価などが詳しく解説されている。会計のスタートは収益を把握(認識・測定)することだ。収益をいつ、どのように認識するかについて実現主義の原則がある。この原則により、製品を販売した時点で認識する販売基準がとられている。なぜ販売時点なのか。当期純利益は配当金などの形で企業の外部に流出する。従って、利益の源泉となる収益についても、財務的な裏付けが要求されるのだと説明している。

  こうした会計システムも、今、会計の国際的収斂化の大波を受け、変容している。日本企業の経営に大きな衝撃を与える内容も含まれている。退職給付会計基準の改正では、公正価値評価の考え方が導入され、2014年3月期から連結貸借対照表では未認識債務(積み立て不足)を即時認識し、負債に計上することになったのもそうだろう。企業の中には1000億円規模の不足を抱えていたところもあった。

  著者は国際的収斂化について「すでに起こった未来」と言う。日本の最近の動向についても「わが国がIFRSに対して消極的になったことを必ずしも意味するものではない」としている。日本企業にとって、IFRSの動向はもはや無視できないとして、IFRSとの関連を詳細に説明している。まさに書名に「現代」とある所以だ。

  著者は、IFRSが日本企業に与える影響について自ら調査をしている。日本でも包括利益の表示が始まったが、包括利益と配当政策の関係性に注目した。その結果、包括利益が正か負かによって配当行動が異なるなど包括利益が配当政策に少なからず影響を及ぼしているようにみえると言う。包括利益の中には未実現の利益が含まれる。企業が包括利益にもとづいて配当を支払ったとすれば、未だ実現していない利益が外部に流出することになり、企業の財政状態は悪化しかねないと心配している。

  のれんの会計処理も日本基準とIFRSとでは大きく異なる。日経のデータをもとに著者が作成した「2003-12年度の10年間における日本企業(2148社)ののれんの推移」などが掲載されている。最近は、のれんの計上額は6兆円を上回る。貸借対照表上の総資産に占める割合は1.25%だ。これを産業別にみると、医薬品業界が1兆1300億円と最も多く、総資産に占める割合は9.93%と高い。この業界で、最近、大型のM&Aが行われたためだ。日本基準では、のれんは20年以内で定額償却することが求められている。このため、利益数値が大きく圧迫される。この点、IFRSでは、のれんの償却はしなくてもすむ。製薬業界では、武田薬品工業、アステラス製薬などがIFRSへ移行しているのはこのためだ。しかし、減損のリスクも高くなる。のれんの非償却の問題は、今後の大きな論点としている。

  こうした会計、財務の知識や分析ツールが身につけば、会計情報をもとに企業の実態を分析的に解釈し、より深く理解ができるようになる。これが会計の最終ゴールだとして、終章で分析的解釈のフレームワークと手法を説明し、現実の企業を取り上げて実際の活用例を紹介している。フレームワークと手法では、ファンダメンタル分析、安全性分析、効率性分析、収益性分析などだ。活用例ではハウス食品とヱスビー食品の比較が示されている。「これまでみえていなかった風景が、必ずみえてくるはず」との言葉で締めくくっているが、本当にその通りだと実感した。

(川端久雄 <編集委員、日本記者クラブ会員>)
 

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