[書評]

2016年6月号 260号

(2016/05/19)

今月の一冊 『はじめての企業価値評価』

 砂川 伸幸、笠原 真人 著/日経文庫/1000円(本体)  
 [評者]西山 茂(早稲田大学大学院<ビジネススクール> 教授、公認会計士)

今月の一冊 『はじめての企業価値評価』 砂川 伸幸、笠原 真人 著/日経文庫/1000円(本体)  M&Aにおいて、ターゲットとなる企業を適切な金額で買収することは、買収の成否のカギであり、大きなポイントの1つである。また、買収金額の評価は企業価値の評価にも通じるが、これはコーポレートガバナンス・コードの制定や伊藤レポートの発表といった動きの中で、改めて関心を集めている。ただ、企業価値の意味や評価方法について、財務的な視点からしっかりと理解しているビジネスパーソンは必ずしも多くはないと思う、本書は、その企業価値の評価について、日本における企業財務の代表的な研究者のおひとりである砂川氏と企業価値評価の実務に従事してきた実務家である笠原氏が共著で分かりやすく執筆した入門書である。

  本書の特徴は大きくは3つある。

  1つ目は、DCF法、フリーキャッシュフロー、資本コストをはじめとして、企業価値について必要なポイントを分かりやすくまとめている点である。特に30ページあたりからはじまる各論については、事例も取り上げながら分かりやすく解説されており、入門書とはいえこの1冊で企業価値評価についての概要がある程度理解できるように書かれている。

  2つ目は入門書としているものの、実務で必要となる可能性が高いポイントについては、一般的には応用と考えられるようなかなり深いところまで網羅していることである。例えば、事業会社での買収で課題になることが多いシナジー効果の評価や、海外企業の買収などで課題になることが多いクロスボーダーでの評価、さらに非公開企業の評価における資本コストの推計計算、また企業価値評価の検証など、一般的には応用的な内容でありながら実務で直面することが多い点をしっかりと網羅している。

  3つ目は、読みやすくするための工夫がいくつも組み込まれている点である。具体的には、文章を「ですます」調にしたり、具体例を多く入れこんでいること、さらに全体を基礎編と実践編に区分し、読者の読み方の指針を挙げていること、さらに、より深く学びたい方のために中級レベルの書籍のブックガイドを記載していることである。

  このように、本書は企業価値に関して実務を意識した入門書として大変分かりやすくまとめた秀逸の1冊である。企業価値の評価について実務的な観点から、その概要を効率よく、しかも分かりやすくポイントを押さえたいと考えているビジネスパーソンに是非お勧めしたい。なお、著者の砂川氏には、「コーポレート・ファイナンス入門」(日経文庫)という著書もあるが、こちらもコーポレート・ファイナンスを分かりやすく解説した良書である。本書の中でも何カ所か参考として挙げられており、理解を深めるために合わせて読まれることもお勧めする。

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