全国拠点1100カ所、登録教師数30万人超の高収益グループ
2021年11月、欧州の投資ファンドであるシーヴィーシー・キャピタル・パートナーズ(以下CVC)は、「家庭教師のトライ」などを手がけるトライグループ(以下トライ)を買収した。CVCは買収のためにSPC(特別目的会社)を設立、創業者の平田修会長らからトライ株を全株取得。その後、平田会長と二谷友里恵社長がSPCに再出資した。買収額は公開されていないが、約1100億円と見られる。
トライは、創業者である平田修・取締役会長が1987年1月に富山大学の学生たちの家庭教師教育サークル「富山大学トライ」を創業して家庭教師派遣事業を開始したのが始まり。その後、1990年4月トライグループを設立して法人化した。2005年には二谷友里恵氏が代表取締役社長に就任している。家庭教師と教室での個別指導サービスで全国1100カ所の拠点を持ち、登録家庭教師の数は30万人を超える。
日本では、少子高齢化に加えて大学入試の改革もあって、オーダーメイドの個別指導による教育サービスが求められており、Education(教育)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた「EdTech(エドテック)」がキーワードとなっている。
このエドテックにいち早く取り組んできたのがトライだ。2015年7月には完全無料の映像授業サービス「Try IT(トライイット)」をスタート。無料会員登録をするだけですべての映像授業(1本15分程度)が無料で視聴できるという、業界初の画期的なサービスを展開して注目された。このサービスは、すでに100万人の子どもたちが利用しているという。
さらに2020年には、全学力層の生徒に対して5教科(国語、社会、数学、理科、英語)対応が可能な「診断型」AI(人工知能)教育サービスの開発・展開のため、ソニーグループのAI会社であるギリアと資本業務提携。共同で「トライ式AI学習診断」を開発した。5教科対応の全学力層生徒向けオリジナルAI教育サービスを開発・展開するのは、教育業界初の取り組みで、2019年度「教育AI賞」を受賞している。
日本の学習塾の市場規模は約1兆円。上場企業のトップは「進研ゼミ」や介護事業などを運営するベネッセホールディングスの4275億円(21年3月期連結売上高)だが、学習塾業態でいうとナガセの458億円がトップ。トライは、非上場だが2021年5月期の売上高は約500億円でナガセを上回り、
EBITDA(税引き、利払い、償却前利益)は80億円強と高い収益性を誇る優良企業だ。
トライを買収したCVCは、1981年に設立された欧州の
プライベートエクイティ(PE)ファンド。シティグループのベンチャーキャピタル部門が出発点で、長期投資を基本戦略としており、全世界24拠点で13兆円の資産を運用している。2003年に日本拠点が開設された後、2005年12月に日本支社である「CVCアジア・パシフィック・コンサルタンツ・ジャパン」が設立され、2006年4月に現在の「CVCアジア・パシフィック・ジャパン」に名称変更された。2020年4月にはアジア・太平洋地域を投資対象とする5号ファンドで45億ドル(約4900億円)の資金調達を完了しており、日本ではアルテリア・ネットワークス、テクノプロ・ホールディングス、HITOWAホールディングス(旧
長谷川ホールディングス)、りらく、
ファイントゥデイ資生堂等への投資実績を持っている。
高収益企業であるトライが、CVCと組んだ目的は何か。また、CVCはトライの今後の成長戦略をどう描いているのか。CVCの杦山幸功・日本共同代表 パートナーに聞いた。
<インタビュー>
CVCの知見やネットワークを活用してIPOを実現
杦山 幸功(シーヴィーシー・アジア・パシフィック・ジャパン代表取締役 日本共同代表 パートナー)
トライがPEファンドに期待したもの
―― トライグループ(以下トライ)との交渉がスタートしたのはいつ頃からですか。