[マールインタビュー]

2009年8月号 178号

(2009/07/15)

No113 国際会計基準の導入へ対応急ぐ 日本最大の監査法人

新日本有限責任監査法人 加藤義孝 理事長
  • A,B,EXコース
国際会計基準導入の意義
――国際会計基準(IFRS)導入の流れをどうみられますか。
「従来、会計基準については米国基準が絶対と言われていたのですが、企業活動、資金調達などがグローバル化する中で、欧州を中心とするIFRSが力をもち、百カ国にまで広がりました。米国も自国市場に上場する会社に米国基準を求めるより、むしろIFRSの適用を認めたほうが、自国の証券市場の発展のためになると判断し、IFRS導入に踏み切りました。では、日本はどういう道を進むべきか。従来どおり日本基準のまま行くなどいろいろ選択肢があったわけですが、米国の動きもあり、日本もIFRS導入を積極的に進める流れとなったのです。急激な変化です」
――金融危機の影響は受けませんか。
「世界的な経済不況も加わり、ベースにある時価会計の考え方に水が入り、若干ブレーキがかかっていて、今後、導入のタイミングについて見直しがあるかも知れませんが、基本的な方向性は変わらないと判断しています」
――時価会計の考え方をベースにした会計基準は日本に馴染みますか。
「行き過ぎた時価会計については見直すことも必要かと思っています。これまで日本に一番合う会計基準は、取得原価主義と考えられてきました。製造業中心の経済にあって、信頼性に重きをおいた特性を有する会計情報が尊ばれてきたことはある意味自然で、これは日本に限ったことではありません。しかし、財務諸表の主たる利用者が市場参加者に移るにつれ、こうした過去情報のみから構成される財務報告は、投資対象の将来キャッシュ・フローを予測する上では不十分であることが認識されるようになってきました。さらに、数々の企業の『突然死』とそれら事件が浮かび上がらせた会計制度の不備もまた、こうした流れを加速させる要因になっています。その結果として、日本でも金融商品、退職年金、減損、企業結合といった分野で、時価会計的な要素の導入が進んだわけです。経済の発展に伴い、今日の企業はこれまでなかった様々なリスクとリターンを抱えており、これを会計的にどう表現していくべきなのかということが問題になります。M&Aで買収先の価値を取得原価で評価したいという経営者はいないと思いますし、マーケットも同様に考えているわけです。経営者としては、自らのコントロールが及びにくいボラティリティーが増すわけですから、企業の価値、経営を評価する物差しが時価会計、包括利益にシフトしていくことについては、相当抵抗があり、慎重論もあります。とはいえ、いまさら伝統的な取得原価主義へ回帰することはマーケットが許さないでしょうし、それ以外の有力な代替案がないのも事実です。市場の流動性やいわゆる公正価値測定のレベル3の問題にも見られるように、時価会計にも限界があるわけですから、これをきちんと意識しながら、今後の会計制度の方向性を探っていかざるを得ないでしょう」
――日本で導入の影響は大きいですね。
「IFRS導入は、単純に規則が何か一つ変わるといった話ではない。経営そのものの考え方に相当影響を与えます。会社の目標とすべき経営指標の概念が経常利益から純利益や資産負債の価値変動も含んだ包括利益に変わる。会計学的に言えば利益の概念が収益・費用アプローチから資産・負債アプローチに変わる。ビジネスの発想の転換も必要になります。非常に大きな制度の変更になります」
――世界の会計基準がIFRSに統一されれば、確かに各国の企業の財務諸表の比較可能性は高まりますが、日本の資本主義の強さが損なわれませんか。
「こう考えたらどうでしょうか。IFRSを導入するということは、別なもう一つの見方が入る。今までの見方を否定するのではなく、多角的・多面的に企業の価値をみていく。または見られているのだという意識を経営者がもつ。経常利益で頑張るという従来型の経営も大切です。しかし、資金調達、株価を上げるという点では、別の目線で自分の会社をみているところがある。ライバル社との比較で、不良資産はこちらが多い、時価総額はこうだ、包括利益ではこれだけの差があると、いろんな物の見方をされている。それが投資家だったり、株式市場だったり、あるいはその他のステークホルダーだったりする。単純に売り上げからコストを引いて利益を出し、抱えているその他のリスクは無視した結果だけが唯一の指標であり得るはずはない。日本の経営者も、この点をしっかり理解すべきだと思います」

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