[Webインタビュー]

(2020/08/03)

【第119回】コロナ禍の中堅・中小企業への資本注入プロセスについて

安東 泰志(ニューホライズン キャピタル 代表取締役会長)
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金融機関による潤沢な融資が不可欠

―― 東京商工リサーチによると、7月22日現在の新型コロナウイルスに関連した企業倒産件数(負債1000万円以上)が累計で350件に達しました。実質無利子無担保の融資制度など政府の資金繰り支援策で延命した企業も、今後売り上げの回復が見込めなければ倒産や廃業を選択せざるを得なくなると予測されています。このように、新型コロナの影響で中堅・中小企業の苦境が明確になっていますが、一方で新型コロナの終息については先が見通せない状況になっています。中堅・中小企業に対する支援が大きな問題になってくると思われますが、安東会長はどう見ておられますか。

「おっしゃるように、2月後半から現在まで、業種によってはかなり深刻な売り上げの落ち込みを記録しています。固定費等については、雇用調整助成金などでほんの少し補填できたとはいうものの、資金繰りが厳しい中堅・中小企業が増えています。政府系金融機関も含めて緊急融資であるとか、信用保証協会の保証付融資などの緊急融資はなされていますが、これは負債ですから、返済について1年間据え置きになっているとはいえ、実際には1年後の返済見通しは難しいというのが実情ではないでしょうか。そうであれば、今は緊急事態ですからどんどん資金を供給していくしかないと思います。ただ、いずれはこれを資本性の資金、つまり弁済の必要がない資金にしていかないと厳しいと考えています。

 これについて、政府は地域経済活性化支援機構(REVIC)といった官民ファンドを使って資本注入しようとしています。しかし、全国何千何万とある中堅・中小企業に、そのような形で国が資本をつぎ込んでも、その方法だと負債を塩漬けにしたまま、政府が、議決権があるかどうかは別にして、かなりの長期間にわたって企業経営に関与していくという形になります。それよりもはるかに迅速かつ効果的に資金を入れる方策があるのです。

 まず、今申しましたようにメガバンクや地方銀行・信用金庫が地域の中核企業と考える融資先に対しては、コロナ禍による資金繰り難や、業績の一時的悪化に相当する分を潤沢に融資することが必要です。

 それが可能になったのは、2019年12月に、金融庁が銀行の経営を監督するために使ってきた『金融検査マニュアル』の廃止を発表したからです。金融検査マニュアルはバブル経済の崩壊後、銀行に多額の不良債権が発生していた1999年に導入されました。不良債権を的確に把握して金融システムの信用を回復するため、貸出債権の分類や引き当て(貸倒引当金の計上)に一律の基準を設けて銀行が貸出債権を自己査定し、それを金融庁が検査・監督するという狙いがありました。

 この金融マニュアルが廃止されたことで、金融機関は自らの経営方針に基づいて融資の是非判断をすることになります。たとえば業績不振先であっても再生支援を強化して融資を続けるという方針を金融機関が取ったとすれば、必ずしも不良債権に分類する必要はないということです。もちろん、金融検査マニュアルが廃止されたということは、今後は銀行の経営陣自らがどのような経営方針に基づいて融資や資産運用をするか、経営環境をどのように捉えているかの能力が問われることにもなります」

金融機関の自己資本の棄損をどう扱うか

―― 各金融機関の“目利き力”が問われることになるわけですね。

「今後、新型コロナ禍がどの程度で終息するかは不透明ですが、一段落すると思われる1~2年後をめどに、各金融機関は融資先の正常収益力を確認する必要があります。その結果を踏まえて、金融機関は適宜引き当てを積まなければなりません。今言いましたように、金融検査マニュアルが廃止されたことによって、金融機関は融資先の企業の将来性を織り込んで引当金を柔軟に計上できるようになりました。しかし、これは金融機関の自己資本の毀損をどう扱うかということとセットで考える必要があります。

 そのため、金融庁は5月に健全な金融機関への資本注入を可能とする金融機能強化法の支援申請期限を現行の2022年3月から26年3月へと4年延長する方針を固めました。これは、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、金融機関に公的資金を注入する際に経営責任や収益目標を求めない特例を設けることで企業への融資を促す狙いがあります。

 金融機関の今後の対応に関して言うと、例えば償却前利益の10年分以上などの過剰債務になっているケースについて、その分の債務免除をするか、当該の貸付債権を時価で民間のPEファンドなどに売却する方法があります。PEファンドは買い取った貸付債権を株式に転換するか、時価までの債務免除をして時間をかけて回収すればよいのです。一方、国や金融機関は、企業の株主になったり劣後ローンを抱えたりする必要がなくなります」

資本性の資金を機動的に投入

―― PEファンドとの協働が有効な手段になるということですね。

「金融機関だけではできることとできないことがあります。できないことというのは、企業に対する資本性資金の投入であり、経営権を握ることによる経営関与です。したがって、金融機関にできることは、現実的には債権放棄だけなのです。また、中期的には全ての企業を救済することは現実的ではありませんし、産業の新陳代謝の上でも、退出すべき企業はこれを機に退出してもらい、地域のニッチトップ企業や社会的意義がある企業を再生し育てていく発想が必要になります。

 しかし、ポストコロナの中で再生を目指し育てていくべき企業が必要としているのは、返済の必要がなく、対外的な信用力を維持することができる資本性の資金です。銀行や銀行が実質支配するファンドなどが株式を取得して企業経営を支配するのは、融資(債権保全)との利益相反行為であり、独禁法の精神にも明確に違反します。こうした企業に資本性の資金を機動的に投入し、しかも経営改善に向けてハンズオンで経営関与できるのは独立系のPEファンドをおいて他にないと私は考えています」

PEファンド活用のメリット

―― 実際に、PEファンドと組むことのメリットには具体的にどのようなことがありますか。...


■あんどう・やすし
1981年に三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、1988年より、東京三菱銀行ロンドン支店にて、非日系企業ファイナンス担当ヘッド。90年代に英国ならびに欧州大陸の多数の私的整理・企業再生案件について、参加各行を代表するコーディネーターとして手がける。1994年、英国中央銀行による「ロンドンアプローチ(私的整理ガイドライン、INSOLの前身)ワーキンググループ」に邦銀唯一のメンバーとして招聘される。その後、東京三菱銀行企画部で企画部門の次長を歴任後、2002年フェニックス・キャピタル(現・ニューホライズンキャピタル)を創業し、代表取締役CEOに就任。国内機関投資家の出資による8本(総額約2600億円)の投資ファンドを組成、市田・近商ストア・東急建設・不動建設・世紀東急工業・三菱自動車工業・ゴールドパック・ティアック・ソキア、日立ハウステック、たち吉など、流通・建設・製造業に亘る数多くの企業の再生と成長を手掛ける。東京大学経済学部卒業・シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。 事業再生実務家協会常議員、日本取締役協会監事。

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