動き出す地方有力スーパー ~新日本スーパーマーケット同盟の発足 食品スーパー業界を取り巻く環境は厳しい。人口減少と高齢化の影響で食品市場の縮小が進む中、コンビニやドラッグストアなど他業態との競争も一層激しさを増す。
こうした厳しい環境の中でも強さをみせているのが、地元に根を張った地方の有力スーパーだ。地域の食を熟知し、それを売り場づくりに生かすヤオコー(埼玉)やヨークベニマル(福島)、実直なまでに「高質+EDLP(エブリデイロープライス)」を実践するオーケーストア(神奈川)など、同連載でも度々取り上げてきた地域密着型のスーパーは売上を伸ばし続けている。
昨年12月、地方の有力スーパーであるアークス(北海道・東北)、バロー(中部)、リテールパートナーズ(山口・九州)の3社が資本提携に踏み切った。新日本スーパーマーケット同盟と銘打つこの資本提携は、店舗網が重複しない遠隔地の組み合わせという点でこれまでの同一・近隣エリア内の提携とは異なる「攻め」の動きを感じる。こうした地域に根を張った有力スーパーの強さから見えてくるのは「地域を知る」ことがいかに重要であるかだ。アパレルや家電業界などにはない「食」を扱う業界特有の要素と言っていい。
全国展開のトップ企業ではない地方の有力スーパーが元気な理由はどこにあるのか。筆者は食の持つ地域性に一つのヒントがあると考える。以下では食品スーパーの業界構造の変化や家計の食品支出の地域差などを見つつ、食の持つ「地域性」について理解を深めたい。
IT業界とは異なる食品スーパー業界の寡占化 IT業界はGAFAを筆頭とする少数企業による寡占化が進んでいる。市場の寡占化は食品スーパー業界も例外ではない。図表2は食品スーパー各社の食品売上シェアを上位から積み上げた累積分布図である。グラフが上にシフトするほど寡占化が進むことを表す。上位100社の売上シェアは2000年の時点で57%だったが、2017年では66%と約1割拡大している。
食品スーパー業界の寡占化の特徴は2つある。一つは中小スーパーがシェアを低下させている点にある(図表1)。人口減・高齢化による市場縮小をもろに受けた格好だ。中小のシェア縮小は他業界でもみられる現象である。
2つめの特徴は、シェアを拡大した企業はトップ企業ではなく地域の有力スーパーや中堅クラスの企業という点にある。通常寡占化は上位企業がシェアを拡大することで起きる。GAFAの寡占化はデータの大量取得で規模の経済が働くことで起きている。チェーンストアも規模の経済を目指す経営スタイルであるため、自然に考えればトップ企業が寡占化を主導するはずである。実際、イギリスのスーパー業界では、テスコ、セインズベリー、ウォルマート傘下のアズダの3強が寡占化を主導する。
図表1 食品スーパー業界の累積売上分布(食品売上高)
…
■藤原 裕之(ふじわら ひろゆき)
略歴:
弘前大学人文学部経済学科卒。国際投信委託株式会社(現 三菱UFJ国際投信株式会社)、ベリング・ポイント株式会社、PwCアドバイザリー株式会社を経て、2008年10月より一般社団法人 日本リサーチ総合研究所 主任研究員。専門は、リスクマネジメント、企業金融、消費分析、等。日本リアルオプション学会所属。
※詳しい経歴・実績はこちら
※お問い合わせ先:hiroyuki.fujiwara@research-soken.or.jp