[M&Aスクランブル]

(2022/12/05)

地銀の経営統合に関する一考察~経営コスト引き下げが最優先事項

前田 昌孝(マーケットエッセンシャル主筆、元日経新聞編集委員)
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米国では銀行数が1万超減少

 上場している銀行株には何銘柄があるかというと、2022年11月末現在で85を数えている。近年は毎年、4月と10月に1~2銘柄ずつ減少する傾向にある。今後も2023年6月をめどに八十二銀行と長野銀行が、2023年10月をめどにふくおかフィナンシャルグループと福岡中央銀行がそれぞれ経営統合をする予定だ。地域経済を支える核として、強い金融機関になってほしい。

 日本には全部で522の金融機関があり、本支店合わせて4万6000余りの店舗を展開している。店舗のうち約半分の2万3658は郵便局だが、それにしても狭い国土によくこれだけのネットワークを敷いたものだ。米国には米連邦預金保険公社(FDIC)の統計によると、2021年末に4236の商業銀行と7万2166の支店(本店は除く)があるが、人口当たりでみたら、日本のほうがより「密」なサービスが展開されている。

 米国には1864年の連邦銀行法制定当時から複数の州に支店を設けることを禁じる州際業務規制があり、州によって時期は異なるが、おおむね1980年代まで、他州の銀行の州内への進出には厳しい制約が課されていた。グラフを見れば明らかだが、規制緩和の進展につれ、第1に自主的な経営統合、第2に破綻処理のプロセスを経て、銀行数がどんどん減っていったのである。2021年末の商業銀行数はピークだった1983年末の1万4469に比べて1万以上少なくなった(図表1)。

米国の商業銀行数と支店数
(出所)米連邦預金保険公社(FDIC)のデータをもとに筆者作成

 筆者が米国のワシントンに日本経済新聞記者として駐在していた1991~94年ごろは、米国では貯蓄金融機関(S&L)や中小銀行の経営危機が尾を引いており、毎週金曜日になると、FDICや整理信託公社(RTC)が「○○銀行(あるいはS&L)は今週末で営業が終了し、翌週から預金と借入金は別の△△銀行に移管される」といった発表が繰り返されてきた。

 日本でもこうした破綻処理は1994年に東京協和・安全の2信用組合が破綻して東京共同銀行(のちの整理回収機構)に営業権を譲渡したのを皮切りに、2003年ごろまでは相次いできた。しかし、その後は破綻処理ではなく、人口の減少や地元経済の衰退など経営環境の悪化をにらんで、経営陣が覚悟を決め、自主的に進めるケースが相次いでいるというのが、筆者の理解だ。

特徴を出しにくい業態



■ 筆者履歴

前田 昌孝

前田 昌孝(まえだ・まさたか)
1957年生まれ。79年東京大学教養学部教養学科卒、日本経済新聞社入社。産業部、神戸支社を経て84年に証券部に配属。97年から証券市場を担当する編集委員。この間、米国ワシントン支局記者(91~94年)、日本経済研究センター主任研究員(2010~13年)なども務めた。日経編集委員時代には日経電子版のコラム「マーケット反射鏡」を毎週執筆したほか、日経ヴェリタスにも定期コラムを掲載。
22年1月退職後、合同会社マーケットエッセンシャルを設立し、週刊のニュースレター「今週のマーケットエッセンシャル」や月刊の電子書籍「月刊マーケットエッセンシャル」を発行している。ほかに、『企業会計』(中央経済社)や『月刊資本市場』(資本市場研究会)に定期寄稿。
著書に『株式投資2023~不安な時代を読み解く新知識』『深掘り!日本株の本当の話』(ともに2022年)、『株式投資2022~賢い資産づくりに挑む新常識』『株式市場の本当の話』(ともに2021年)、『NISAで得したいなら割安株を狙え!』(2013年)、『日本株転機のシグナル』(2012年)、『日経新聞をとことん使う株式投資の本』(2006年)、『株式市場を読み解く』(2005年)、『こんな株式市場に誰がした』(2003年)、など。

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