[寄稿]

2021年5月号 319号

(2021/04/15)

海外M&AにおけるPMI及びグローバルガバナンスの実務

今仲 翔(森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士)
  • A,B,EXコース
1. はじめに

 グローバル化が進展し、海外企業との競争が激しくなる中、日本企業が海外企業を買収するM&Aの重要性は日に日に増しており、2020年にはコロナ禍による影響を受けたものの、海外M&Aの件数は基本的に増加傾向にある(https://www.marr.jp/genre/graphdemiru参照)。もっとも、2018年3月に経済産業省の我が国企業による海外M&A研究会がまとめた「『我が国企業による海外M&A研究会』報告書」(以下、「本海外M&A研究会報告書」という。)においても言及されているとおり、日本企業による海外M&Aにおいては、近時、期待されたような成果を十分挙げられていないなど、問題点やリスクが注目を集めることも少なくない。その理由としては、特に海外M&Aでは、情報入手に係る制約、文化的・制度的な相違、物理的な距離も含めたコミュニケーションギャップといった様々なハードルが存するため、買収後の統合作業(PMI)の重要性が高まる中、日本企業がPMIを効果的に実施できていないという点が課題として挙げられることも多い。このPMIが課題であること自体は広く認識されるに至っており、M&Aを実施する企業のPMIへの意識は高まっているが、筆者の経験上、具体的にPMIとしてどのような作業が必要となるかについてイメージを持ちにくいとの相談が多く寄せられるため、本稿では、主に法務の観点からPMIとして実施される事項の一端を紹介することとしたい。以下では、下記2.において、買収前から検討すべき重要な事項としてガバナンス及び組織設計について触れた上で、下記3.において、買収後に実施されるPMIの実務を紹介することとしている。

 なお、PMIにおいてどのような対応が必要となるかは、買収者及び対象会社の事業の内容、買収形態、対象会社の所在国、買収目的等様々な要因に応じてケースバイケースで検討されるべきものである。従って、下記は参考までに一例を紹介するものに過ぎず、実際に実施すべき事項は案件の性質に応じて検討される必要がある点にご留意いただきたい。また、PMIでどのような施策が必要となるかは買収者のグローバルガバナンスに関する方針による面も大きく、また、PMIの場面で対応が必要とされる事項は平時においてもグローバルガバナンスの観点から対応の必要性が高い事項でもあるため、海外M&AにおけるPMIとグローバルガバナンスは密接に関連する。従って、本稿に記載した事項はそのままグローバルガバナンスの観点からも検討が必要な事項となる。


2. 買収前から検討すべきPMIの実務-ガバナンス・組織設計-

 PMIに際してまず最初に検討が必要となるのは、対象会社のガバナンス体制の構築及び組織設計である。これらの事項はDay 1から機能させる必要があるため、買収の実行前から方針を決定しておく必要がある。

①ガバナンス体制の構築

 まず、買収者が採用しているガバナンスの仕組みを踏まえ、買収後の対象会社をその仕組みの中でどのように管理するかの方針決定が必要となる。グローバルガバナンスの仕組みとしては、例えば、(i)本社が一括して海外子会社を管理する仕組み、(ii)事業部(ビジネスユニット)ごとに管理する仕組み、(iii)地域ごとに地域統括会社が管理する仕組み、及び(iv)これらをハイブリッドに適用する仕組み等があるが、買収後の対象会社について、既存の仕組みに従って他の海外子会社と同様の方法で管理するか、対象会社については別途の管理方法によることとするか、及び管理の程度について方針決定が必要となる。対象会社の管理の方法や程度については、対象会社が買収者と同じ事業を営むか、規模がどの程度か、買収者が対象会社の所在国においてどの程度経験を有するか等を考慮の上、税務及び財務の観点も踏まえた上で決定することになる。なお、海外子会社を含むグループ会社のガバナンス構築を強化することの重要性は、2019年6月28日に経済産業省により公表された「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」においても言及されており、PMIの場面に限らず、平時から適切なグループガバナンスの構築について意識を持つことが重要である。

 法務の観点からは、

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