[地域金融機関に聞く「M&Aによる地域活性化の現場」]

(2019/04/10)

【第1回】京都銀行 営業本部 M&A推進室

聞き手:日本政策投資銀行 企業戦略部
3.M&A業務の特徴・具体的事例

(1)M&A業務の特徴

  京都銀行のM&A案件は、事業承継という譲渡側のニーズと事業領域拡大という買収側のニーズを組み合わせるという地域金融機関における典型的な組み合わせが中心となっています。

  そのような中で、特徴として「製造業中心」「広域型地方銀行としての取り組み」「京都ブランドへの関心」「地場産業への取り組み」といった点が挙げられます。

  京都は、京セラ、日本電産、任天堂、村田製作所等の日本を代表する製造業の集積地であり、京都銀行は、製造業向けの取引に強みを有しています。これは、京都銀行が福知山市で創業し1953年に京都市内への本店の移転を行っており、戦後に相次いで誕生した京都のメーカー(ベンチャー企業)とともに歩んできたという歴史にも起因しています。そのため、製造業(建設業を含む)が、京都銀行のM&Aの成約実績の2/3を占めています。

  このような製造業における強みは、広域型地方銀行という特徴により、更なる相乗効果を生んでいます。京都銀行は、京都府に加えて、名古屋、堺・東大阪といった製造業に強みのある地域へ進出していますが、それぞれの地域を繋ぐM&Aには特に強みを有しています。2018年の測定機器の応用電機(京都府城陽市、売上高約140億円)による三電社(名古屋市、売上高約5億円)の買収は、応用電機が自動車産業の集積する愛知県で車載機器分野の事業を強化したいというニーズに対応した案件でした。また、精密ギアメーカーのオージック(大阪府東大阪市、売上高約30億円)が堺市の精密加工メーカーを買収した案件等もあり、こういった、地域を繋ぐ取り組みをできることが京都銀行の特徴とも言えます。

  域内の企業が域外に進出するニーズへの対応に触れましたが、他方で、域外の企業から京都ブランドを有する企業(旅館業・料亭・食品製造業等)を譲り受けたいという要望も数多く寄せられています。

  また、地域産業のM&Aにも取り組んでいます。京都の地域産業としては、和装を含む伝統工芸や伏見の清酒などが挙げられ全国的に名高いですが、戦後のライフスタイルの変化によりそれぞれの市場は長期的な縮小が続いており、例えば、酒のしおり(国税庁課税部酒税課)によると清酒の消費量は1975年の1,675千klから2016年の537千klと、市場規模が3分の1へと大幅な減少を示しています。インバウンドによる需要の増加、世界遺産登録や広報活動による和食及び日本酒の国際的評価の高まりといった好材料もありますが、産業構造の改革は不可欠であり、M&Aによる第二、第三の事業の柱の確立や事業承継を契機とする業界の集約化などを進めています。和装の製造販売業者の同業者による買収や酒類メーカーによる食品メーカーの買収といった成約事例もあり、中には、寺社仏閣で用いる法衣・装束メーカーの事業承継案件も手掛けたそうです。

  最後に地域性という観点から、ベーカリーのM&Aに触れます。京都は和食の印象が強いですが、意外なことに一人あたりのパンの消費量が都道府県で全国1位となっています。そのため、パン・ベーカリーも地場産業を形成しており、京都銀行は、洋菓子を含めてこの分野で複数件の成約実績を有しています。

(2)今後の注力分野

  今後の注力するテーマは、「ヘルスケア」「海外進出」「PEファンド」です。

  ヘルスケアは医療や介護等の制度的な知見を要するため1名の専担者を配置し、取り組みを積極化しています。

  海外進出は、M&A推進室の取り組むべき次の大きなテーマであり、2018年5月に京都府のばね製造事業者によるシンガポールの同業者の買収案件を成約しました。このことで、地域の企業からの相談とM&Aブティックからの案件持ち込みが急増しており、今後も案件成約を重ねるべく、チャレンジを続けているとのことでした。

  最後のPEファンドへの対応ですが、M&A推進室内の東京駐在者や京都銀行がLP投資家として関係のあるPEファンドとの連携を強め、案件開発を進めています。PEファンドの投資先の売却案件は複数の実績を有していますが、このような案件に加えて、PEファンドを受け皿とする事業承継案件にも取り組んでいきたいとの考えであり、2018年度にも1件が成約しました。

インタビューを終えて

  京都には、グローバル優良企業や優れた伝統産業を担う企業とそれらの取引先企業が多く集積しているため、京都銀行は一流を知る方々の眼でいつも見られていると想像されます。M&A業務でも、その高い期待に応えるべく、大変な努力と研鑽の毎日を過ごしていると思われますが、今回のインタビューで印象的だったのは、営業店とM&A部門が一体となってM&A業務を推進している様子と、先見性の高い人的投資でした。後者について、特に最前線の25名もの人材に半年間のM&A業務の研修プログラムを提供した件に驚き、その大胆な取り組みにM&A業務にかける強い意気込みを感じました。

京都府の基本事項

 面積4,612km2(2018年10月1日 ※1)
 人口2,563千人(2018年1月1日 ※2)
 世帯数1,210千世帯(2018年1月1日 ※2)
 総生産額(実質)10,042,325百万円(2015年度 ※3)
 農業産出額737億円(2017年度 ※4)
 製造品出荷額5兆1,503億円(2016年度 ※5)
 卸売業年間商品販売額4兆8,299億円(2016年度 ※5)
 小売業年間商品販売額  2兆9,759億円(2016年度 ※5)

 ※1 国土交通省「全国都道府県市区町村別面積調」
 ※2 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」
 ※3 内閣府「県民経済生産」
 ※4 農林水産省統計部「平成29年農業産出額及び生産農業所得(都道府県別)」
 ※5 総務省・経済産業省「平成28年経済センサス-活動調査」

京都銀行
(2018年9月末日。ただし、営業拠点は2019年3月末日、業種別残高は2018年3月末日)

 設立     1941年10月1日
 本店所在地 京都市下京区烏丸通松原上る薬師前町700番地
 代表者   取締役頭取 土井伸宏
 従業員数3,627人
 営業拠点京都府111カ店、大阪府31カ店、滋賀県14カ店、奈良県7カ店、兵庫県8カ店、愛知県2カ店、東京都1カ店
合計174カ店
(店舗にはネットダイレクト支店、振込専用支店および出張所を含む)
 預金残高   7兆8,598億円
 融資残高   5兆3,991億円

 業種別融資残高

(※)日本政策投資銀行作成

※第2回は、2019年5月14日(火)掲載予定です。(無料会員も含め、全コースでお読みいただけます)
 会員登録はこちらから


  • 1
  • 2

関連記事

バックナンバー

おすすめ記事

スキルアップ講座 M&A用語 マールオンライン コンテンツ一覧 MARR Online 活用ガイド

アクセスランキング