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[【事業承継】中堅中小企業の事業承継M&A ~会計税務の実務上の頻出論点~(M&Aキャピタルパートナーズ)]

(2020/02/12)

【第9回】M&A成立時の基本的な会計処理とアドバイザー等に支払った費用の取り扱い

桜井 博一(M&Aキャピタルパートナーズ 企業情報第二部 公認会計士・税理士)
はじめに 

 中堅中小企業のM&Aでは、そのほとんどが株式譲渡であり、スキームはシンプルなケースが多いです。一方で、買手会社において、対象会社を買収する際に生じる会計処理は、買手会社が連結財務諸表を作成しているかどうかでポイントが異なり、また、会計上と税務上では取り扱いが微妙に異なるため、その取扱いの違い等を正確に理解した上でスキームを検討する必要があります。特に、初めてM&Aを行う未上場の買手会社の担当者などからこの点について質問を求められることが多々あります。

 また、M&Aの検討を進める際には、買手会社は仲介会社やデューデリジェンスの専門家などのアドバイザーに一定の報酬を支払うことになります。この報酬を損金として計上できるのか、それとも取得原価に加算し、資産として計上する必要があるのか、といった税務が絡んだ質問も実務上、多く寄せられます。

 本稿では、M&A実行の際の、買手会社の基本的な会計処理と、実務面において質問の多いアドバイザー等に支払った費用の取り扱いについて解説します。
 
M&Aが成立するまでに支払ったアドバイザーへの報酬等の個別財務諸表上の会計処理

 M&Aを進める上では、成約するまでに、仲介会社などのアドバイザーに対する報酬やデューデリジェンスを依頼する専門家にアドバイザリー費用などを支払うことが多々あります。これらの費用は、支払った時点においてはまだM&A案件が成立するかどうか不明であるため、一時的に「仮払金」等の勘定科目に計上しておき、最終的にM&A案件が成約した際には「関係会社株式」や「子会社株式」といった勘定科目にて買収の取得原価に含め、資産に計上する必要があります。

 一方、案件がブレイク(破断)した場合には、「費用」として仮払金等の科目から振り替えて計上するのが一般的となります。

 ○中間報酬やデューデリジェンスの費用支払時
 (仮払金)××/(現金預金)×× ←中間報酬等の費用の仮計上
 ○案件成約時
 (関係会社株式)××/(仮払金)××  ←中間報酬等の費用の振替
            (現金預金)×× ←成功報酬の支払
 ○案件ブレイク時
 (費用)××/(仮払金)×× ←中間報酬等の費用の振替
 
 株式譲渡の一般的なスキームを検討時に、「支払った報酬を税務上、損金として落とすことができるか(節税ができるか)?」という質問を実務上、よく受けることがありますが、税務上の仕訳も基本的には上記と同じであり、M&Aの検討を進める上でアドバイザー等に支払った報酬があっても原則的には損金に落とせず、節税とはなりません。

 ただし、案件検討の初期段階で、情報提供料のような名目で仲介会社に着手金等を支払った場合は、支払った時点で会計上も税務上も費用として落とすことが一般的です。

個別財務諸表上でアドバイザーへの報酬等を費用(損金)に計上できるケース

 アドバイザーへの報酬等が資産なのか費用なのかという点は、買手会社の進行期の業績に影響しますし、買手会社が未上場会社であれば、節税の観点からも意外と関心が高い論点となります。

 先述の例では、株式譲渡を前提としていたため、アドバイザー等への報酬は原則として関係会社株式などの資産に計上すると記述しましたが、費用として計上しなければならないケースもあります。

 費用として落とさなければならないケースとは、譲り受けるスキームが「事業譲渡」と「合併」のケースです。第6回で記載したのれんの取り扱いと内容が少し重複しますが、事業譲渡と合併の場合は、対象会社の事業もしくは資産等を買手会社が直接譲り受けることになるため、そもそも関係会社株式等の資産が計上されず、結果的にアドバイザー等に支払った報酬等は、費用として計上せざるを得ないためです。基本的かつ当たり前の話ですが、上記を混同する実務担当者は意外と多いのが実情であり、留意が必要です。

連結財務諸表上では、アドバイザー等への費用の取り扱いが異なる

 未上場会社で、連結財務諸表を作成する必要のない会社は、先述した会計処理を行えば事足りますが、一方で、連結財務諸表を作成する義務のある上場している買手会社などでは、個別財務諸表上の会計処理とは異なり、連結仕訳の際に若干の修正が入ります。

 連結財務諸表上では、アドバイザー等への報酬は、費用として計上する必要があります。連結財務諸表は個別財務諸表を元に作成されますので、個別財務諸表上で関係会社株式として資産計上されていれば、それを費用に振り替えることになります。

※支配獲得時は販売費及び一般管理費、追加取得時は営業外費用として計上

 ○アドバイザーへの報酬等の連結仕訳
 (費用)××/(関係会社株式)×× ←個別財務諸表に計上された関係会社株式の修正

税務上の会計処理

 連結上の処理で費用計上されるなら、税務上も損金計上されるのではないか?との質問を受けることがありますが、税務上の処理は全て個別財務諸表を元に計算されるため、連結上の処理が税務上に与える影響は原則ありません。税務上の処理と混同しないことに留意しましょう。

M&A成立時の個別財務諸表上の仕訳

 株式譲渡を前提とした場合のM&A成立時に個別財務諸表上の仕訳は下記の通りです。
 
 ○M&A成約時
 (関係会社株式)××/(現金預金)×× ←株式の取得原価

 上記の仕訳の他、先述したアドバイザーに支払った報酬等の仕訳(M&A案件成約時)が合わせて計上されます。

M&A成立時の連結財務諸表上の仕訳

 連結財務諸表は、先述した個別財務諸表をベースに作成します。連結対象の個別財務諸表を単純合算した後、下記のような連結仕訳を行い、買手会社に計上された関係会社株式と買収した対象会社の個別財務諸表の資本を相殺消去します。

 ○連結仕訳(買収金額が対象会社の純資産と同額の場合)
 (対象会社の純資産)××/(関係会社株式)×× ←投資と資本の相殺消去

 上記の仕訳の他、先述したアドバイザー等に支払った費用を修正する連結仕訳が合わせて計上されます。また、買収時の取得原価が対象会社の純資産を上回った場合、「のれん」が計上されます。のれんの取り扱いについての解説は第6回をご覧ください。

 なお、相殺消去の対象となる対象会社の純資産は支配獲得時の時価がベースとなりますので、簿価と時価に乖離がある場合は、連結上のみ、時価評価がなされます。

 ○連結仕訳(買収金額が対象会社の純資産を上回る場合)
 (関係会社の純資産)××/(関係会社株式)××
 (のれん)××

 ※買収金額が対象会社の純資産を下回る場合は、負ののれんとして特別利益が計上されます。

連結財務諸表作成までの一連の流れ

 先述した仕訳を、連結財務諸表を作成するまでの流れを時系列順にまとめると以下の通りです。

 ○中間報酬やデューデリジェンスの費用支払時
 (仮払金)××/(現金預金)×× ←中間報酬等の費用の仮計上
 ○案件成約時
 (関係会社株式)××/(仮払金)××  ←中間報酬等の費用の振替
            (現金預金)×× ←成功報酬の支払
 (関係会社株式)××/(現金預金)×× ←株式の取得原価
 ○連結仕訳
 (関係会社の純資産)××/(関係会社株式)×× ←投資と資本の相殺消去
 (のれん)××
 ○アドバイザーへの報酬等の連結仕訳
 (費用)××/(関係会社株式)×× ←個別財務諸表に計上された関係会社株式の修正

税務上のメリットでいえば、株式譲渡より事業譲渡の方が有利なのか?

 事業譲渡、合併、株式譲渡など、基本的にどのスキームをとっても連結財務諸表上は原則同じになる点については、第6回でお伝えした通りです。そのような中で、未上場会社が買手会社となる場合、上記の費用を取得原価として資産に計上するのではなく、費用として計上したいという思惑が強いということもあり、「実態は同じにも関わらず、事業譲渡では損金で落とせるのに、株式譲渡ではなぜ損金として落とせないのか」と考えたり、「その税務上のメリットの差はどこで解消されるのか」と疑問に思われたりする方も少なくありません。

 ただし結論としては、どちらでやっても損金として計上される「タイミング」の差だけで、理論上はどちらも税務上のメリットは同じになります。

 すなわち、事業譲渡や合併の場合、取得時にアドバイザーに支払った費用等は損金になりますが、株式譲渡の場合、取得時は株式の取得原価として関係会社株式等の資産に計上され、その株式を売却もしくは清算したときに、取得原価に計上されていた報酬等が費用として実現することになり、その実現時に売却益が小さくなるか、売却損が多く計上されることになります。

 実務上、売却や清算を前提として、M&Aを実行することは少ないと言えますが、タイミングの差であって、どちらのスキームをとっても理論上の結論は同じになるということは理解しておくとよいでしょう。

おわりに
 
 本稿の内容も極めて基礎的な内容ですが、株式の取得原価を構成するかどうか、税務上損金として落とせるのか、連結上との相違点など、これらは意外と混同しやすく、誤った理解をしている実務担当者も多いため、ポイントを絞って解説しました。

 実際の実務では、対象会社の支配獲得時に、もう少し複雑な連結仕訳等が発生しますので、M&Aの実務担当者であれば、本稿程度の内容は最低限理解しておくとよいでしょう。

 次回は最終回として、会計・税務のデューデリジェンス時のポイントについて解説を予定しています。

■ M&Aキャピタルパートナーズ

■筆者経歴
桜井 博一(さくらい・ひろかず)
大学在学中に公認会計士試験に合格後、卒業後は三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。中堅中小企業向けの融資業務や再生支援業務等を経て、株式会社KPMG FASにて中堅・上場企業向けの財務・事業デューデリジェンス業務を中心としたM&Aアドバイザリー業務に従事した後、M&Aキャピタルパートナーズ株式会社に参画。物流業界を中心に、飲食業界、アミューズメント業界等、幅広い中堅中小企業のM&A仲介業務に従事している。 



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