[【企業価値評価】事業法人の財務担当者のための企業価値評価入門(早稲田大学大学院 鈴木一功教授)]

(2019/05/08)

【第4回】割引率、資本コストと期待収益率

鈴木 一功(早稲田大学大学院 経営管理研究科<早稲田大学ビジネススクール>教授)
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1.割引率の様々な別称と、機会費用の意味

  連載第3回では、一般的に、1年複利を前提とした場合のn年後に発生するキャッシュフロー(CFn)の現在価値(PV)は、PV= C F n 1 + r n という計算式で求められることを説明しました。そして、この現在価値を求めるという作業は、将来発生するキャッシュフローの中から、投資に対する収益(リターン)の部分を取り除いて、現時点で投資する投資元本に相当する金額を計算する作業であることも説明しました。今回以降は、現在価値の計算における重要な要素である、割引率(r)について説明します。

  そもそも、割引率はどのように決まるのでしょうか。そのことを考える前に、割引率が、ファイナンス理論においてどのように考えられているかについて説明しましょう。「割引率」は、ファイナンス理論では多くの別称で語られています。比較的よく使われるものだけを挙げてみても、資本コスト(cost of capital)、資本の機会費用(opportunity cost of capital)、期待収益率もしくは期待リターン(どちらも英語では、“expected returns")、ハードル・レート(hurdle rate)といった呼び方があります。これらは、基本的には同じものを指していると考えてよいと思います。

  若干話はそれますが、本稿執筆(2019年4月)時点では、事業法人の読者の皆さんにとっては、特に「資本コスト」への関心が高いのではないかと思います。それは、2018年6月に施行された、改訂コーポレートガバナンス・コードにおいて、上場企業には資本コストを意識した経営が求められることになったからです(同コード、原則1-4および5-2)。なぜ、資本コストを意識した経営が重要とされているのかについては、以下の割引率、資本コストに関する説明を読んで頂ければ理解できるのではないかと思います。

  さて、数々ある割引率の別称の中で、もっとも割引率の本質を示していると思われる名称は、「資本の機会費用」です。資本の機会費用を理解するためには、まず「機会費用」という概念について理解する必要があります。機会費用とは、いくつかの選択肢から1つを選ぶ場合において、選んだことで選択できなくなるそれ以外の選択肢(失われる機会)から得られるはずであった、もっともよい結果と定義されます。これだけではわかりにくいので、実例で説明しましょう。

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■鈴木 一功(すずき かずのり)
早稲田大学大学院経営管理研究科(早稲田大学ビジネススクール)教授
東京大学法学部卒業後、富士銀行入社。INSEAD(欧州経営大学院)MBA(経営学修士)、ロンドン大学(London Business School)金融経済学博士(Ph.D. in Finance)。M&A部門チーフアナリストとして、企業価値評価モデル開発等を担当の後、2001年から中央大学大学院国際会計研究科教授。2012年4月より現職。証券アナリストジャーナル編集委員、みずほ銀行コーポレート・アドバイザリー部のバリュエーション・アドバイザー。主な著書として『企業価値評価(入門編)』、『企業価値評価(実践編)』、『MBAゲーム理論』(いずれもダイヤモンド社)、他にコーポレート・ファイナンス、M&Aに関する論文多数。

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