[マールインタビュー]

2015年11月号 253号

(2015/10/15)

No.180 良心による日本型企業統治の意義と有用性を世界に発信する

 田中 一弘(一橋大学大学院商学研究科 教授)
  • A,B,EXコース

田中 一弘(一橋大学大学院商学研究科 教授)

<目次>

[1] 良心による企業統治という新しい見方

日本型企業統治の核心


-- 「良心による企業統治」とは、どういうものですか。

「人間の良心の部分に光を当てた企業統治のことです。経営者が、例えば、責任感、使命感、利他心、相互信頼といった良心によって、健全で活力ある経営を行うことです。日本ではこの良心による企業統治のメカニズムがよく機能していて、日本型企業統治の核心だった。日本の企業統治を巡る新しい見方です」

-- 企業統治についてはどうお考えですか。

「私は『経営者がなすべきことをし、なすべからざることをしないように、させること』と定義しています。経営者に限らず人間がなすべきことをする動機には二つあります。一つは自利心、もう一つは良心です。自利心は利己心の言い換えですが、例えば、お金が欲しいとか名声を得たいとか、そういうことを求めて行動するときの欲求のことです。しかし、人間には自利心だけでなく良心があります。経営者であれば、トップとしての責任を立派に果たしたい、顧客や従業員、株主、社会のために役立ちたいといった気持ちがあるはずです。ところが、今の企業統治は、このうち自利心しか考えていないのです。つまり、経営者はお金が欲しいのだから、なすべきことをさせるため、会社が儲かれば経営者も儲かるよう業績連動型の報酬体系にしよう、あるいは経営者が何か悪いことをすればちゃんと発見できるよう社外取締役による監視体制を強めようといった論議がされています。経営者の良心の部分は全く問題にしていません。私はこのような現在の企業統治を『自利心による企業統治』と名付け、カタカナでコーポレート・ガバナンスと言うことにしています」

-- 日本ではどうして良心による企業統治が機能していたのですか。

「20世紀後半の日本は、様々な好条件に恵まれていました。社内取締役中心の取締役会や持ち合い株主といった日本型経営システムがそうです。また、企業は従業員のものという企業観、自制に高い道徳的価値を置く倫理観、リーダーの倫理性に強く期待するリーダー観といった価値観がありました。こうしたものが、経営者の良心を喚起する土壌になっていたのです」

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