[M&A戦略と会計・税務・財務]

2020年6月号 308号

(2020/05/19)

第154回 新型コロナウイルス感染症への税務対応と企業実務

荒井 優美子(PwC税理士法人 タックス・ディレクター)
  • A,B,EXコース
荒井 優美子氏

荒井 優美子氏

1. はじめに

 国際通貨基金(IMF)は4月14日に改定した世界経済見通しで、2020年の成長率予測をマイナス3.0%に引き下げ(2020年1月時点から6.3ポイント下方修正)、2009年の金融危機時を超えて「大恐慌以来の経済悪化」(ゲオルギエバ専務理事)となる懸念を示した。世界保健機関(WHO)による新型コロナウイルス感染症(以下、「コロナウイルス」)のパンデミック宣言(2020年3月11日)以後、予想を超える世界的な感染拡大に対して、コロナウイルスは「現存する人々の記憶にない規模の世界的な医療危機」であり、「マーシャルプランの意欲とニューディール政策のビジョンを持つ政策支援を行うべき」(3月20日のアンヘル・グリアOECD事務総長声明)との危機的な認識に至っている。

 2020年4月20日に閣議決定された令和2年度補正予算は、新たに追加された緊急経済対策を含み、事業規模は約117兆1千億円(令和元年度補正予算の未執行分を含めた財政支出は48.4兆円)に上り、リーマンショック後(2009年4月)の56.8兆円(財政支出15.4兆円)を上回り、過去最大の規模とされている。

 本稿では、コロナウイルスへの税務の対応と、企業実務への影響について解説する。


2. コロナウイルスに関連する税務政策及び税務行政の対応

 コロナウイルスの対応については、G20 財務大臣・中央銀行総裁声明(3月6日)や、G7 財務大臣・中央銀行総裁の声明(3月24日)において、世界保健機関(WHO)との強固な協力を支持すること、国内及び国際政策取組みの協調を強化することを明言している。しかしながら、目下は自国における感染拡大阻止と経済対策の立案に追われており、協調的な取り組みの進展までに至ってはいないというのが現実である。

 そのような状況においても、OECDやIMFは各国の政策の状況をPolicy Tracker としてホームページに掲載し、国内外の企業の活動や雇用支援の情報を提供している。OECDが公表しているコロナウイルスの対応は、税務関連の現行法の適用要件の緩和や新たな立法による税務政策と、納税者のための税務行政の運用ルールの緩和等の2つの側面から構成される。

 OECDが公表した「地球規模の危機に対する地球規模の行動(Coronavirus (COVID-19): Joint actions to win the war」(注1)では、コロナウイルスのパンデミックは「ウイルスとの闘いと経済危機という二重苦」をもたらしており、経済危機の克服として、大規模かつ確実な、国際的に調和の取れた4つの側面からなる取り組みを呼び掛けている(図表1参照)。これらのうち、雇用、企業に対する緊急支出は、税務政策に関連するものである。

【図表1 地球規模の危機に対する地球規模の行動】
・ワクチンや治療法に対する規制のハードルの緩和による医療面での国際協力の強化
・経済への悪影響の緩和のための各国政府の共同政策による、医療、雇用、企業に対する緊急支出
医療:大規模検査の実施、医療関係者への支援、医療器材の提供拡大等
雇用:短期雇用措置、失業保険受給要件の緩和、自営業者への現金給付、最も脆弱な人々への支援
企業:負債と納税の遅延の補償、一時的なVAT減税または猶予、信用枠または政府保証による活動資金の利用拡大、中小企業(特にサービス業と観光業)への特別支援パッケージ
・国際協調による金融規制とその監督
・貿易制限の撤廃などによる、景況感の回復
 より具体的な税務政策(コロナウイルス パンデミックに対する緊急的な税務方針(Emergency tax policy responses to the Covid-19 pandemic)(注2)として、「地球規模の危機に対する地球規模の行動」の雇用や企業に対する緊急支出として掲げられている対策の他に、VATの還付のタイミングの短縮や還付請求の簡素化、繰越欠損金の使用制限の緩和等、より納税者に手元資金が還元できるような仕組みが提案されている。

 又、OECD税務行政フォーラム(OECD Forum on Tax Administration)から公表された、コロナウイルス対応としての納税者支援(Tax administration responses to Covid-19: support for taxpayers)(注3)では、申告・納税期限の延長、分割納付の期限の延長、延滞税及び利子税の免除又は返還、納税猶予制度のより優遇的な措置、換価制度の緩和措置、税還付のタイミングの短縮、選択可能な租税制度の確実性の担保、税務調査の実施の見合わせ、相談窓口やデジタル化等の納税者への利便性の向上、広報の充実等の実施を推奨している。

 雇用や事業の継続に関しては、

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