[M&Aフォーラム賞]

2006年9月号 143号

(2006/08/15)

第6回 RECOF賞発表

 

第6回RECOF賞発表
RECOF大賞該当なし
 
優秀賞
「M&Aがもたらした競争優位の計量分析―わが国製造業の買収がもたらした効果」
高宇知敏彦氏(立教大学大学院ビジネスデザイン研究科)
 
「日本型止揚合併の論理―企業価値向上のための合併」
チームOdyssey(一橋大学商学部経営学科加賀谷ゼミ4期生・橋由香里氏、今村菜穂子氏、尾野村悠矢氏、小村雄平氏)
 
佳作
「M&Aと株式所有構造に関する実証分析」
宮崎浩伸氏(京都大学大学院経済学研究科)
 
「コストリーダーシップ戦略を主戦略とする企業の高付加価値・高価格ブランドの構築のためのM&A戦略についての考察」
小田切潤氏(早稲田大学大学院ビジネススクール)
(注)受賞者の所属は論文発表時のものです
学部学生が優秀賞を受賞
第六回(二〇〇五年度)RECOF賞の入選論文が決定した。今回は応募論文二四編の中から厳正な審査の結果、優秀賞二点、佳作二点が選ばれた。
授賞式は七月七日夕刻、東京都千代田区麹町のレコフ本社で受賞者全員とレコフからは吉田允昭代表らが出席して行われた。初めに吉田允昭代表が挨拶。「RECOF賞ご受賞の皆さん、おめでとう。RECOF賞は六回目を迎えますが、お陰さまでだんだん、多くの方に知っていただくことができ、今回は過去最多の二四編のご応募をいただいた。力作ぞろいで審査は難航しましたが、優秀賞と佳作を二点ずつ決定しました。これまで優秀賞の受賞は、大学院の方でした。今回はチームですが、学部の学生の皆様が受賞されたことは、大変喜ばしく思います」などと語った。続いて、賞状と副賞(優秀賞五〇万円、佳作二〇万円)が各受賞者に吉田代表から手渡された。その後、審査委員長から受賞論文の紹介と講評が行われた。
受賞論文の紹介と講評
審査委員長 執行役員 丹羽昇一
《優秀賞》
「M&Aがもたらした競争優位の計量分析―わが国製造業の買収がもたらした効果」
高宇知敏彦氏
本論文は、わが国の製造業を対象に、買収形態のM&Aがいかに競争優位向上に貢献したかを計量的に分析したものである。「合併」ではなく「買収」を対象としている点、競争優位を獲得するための買収戦略の違いとその効果の測定を行っている点などに特徴がある。M&Aの成否に関する先行研究の分析については、日米英にとどまらず欧州大陸諸国までカバーし、また、M&A戦略やM&Aスキームの違いに関する研究にも触れ、先行研究の包括的なサーベイとしても有用である。買収効果の分析結果については、まず、イベント・スタディでは、買収戦略は企業価値にプラスであること、その戦略別分析では、コア事業に関連が深いものほど効果が大きい、IN―INよりはIN―OUTの方が効果が大きい、対象会社の規模が大きいほど効果が大きい、買収を繰り返している企業や買収戦略に一貫性のある企業の買収は効果が大きい、という結果で、特に、M&Aの頻度やM&A戦略の一貫性(理念)に関する分析は、その結果が実務の実感にもある程度合致していることもあり、興味深い。その他の分析では、市場は、目先の収益性やキャッシュフローではなく、戦略性と成長性を評価している点、それから、買収翌期には資産が増加するが、翌々期には資産は減少し、収益は増加するという分析結果のストーリー性も興味深い。M&Aに対する理解度は高く、完成度の高い論文と評価。
《優秀賞》
「日本型止揚合併の論理―企業価値向上のための合併」
チームOdyssey
成功する合併のスタイルを水平合併の事例研究を通じて考察し、存続主導型、完全対等型、消滅考慮型に分類して、「プレ・ポストバランスアプローチ」を提唱するもの。スピード重視の存続主導型と従業員に対する配慮重視の完全対等型にはそれぞれ利点があるが、それらはトレードオフの関係にある。このトレードオフの関係を克服し、スピードと従業員への配慮を両立させる日本型止揚合併として消滅考慮型が望ましいとし、そのスタイルに合ったPMIのポイントとして、精緻な企業評価と「和」重視の人事、真の「対等の精神」などが重要だとし、真の「対等」は、形へのこだわりではなく、対等の根拠と責任の所在を明確にするところにあるとする。プレM&AからPMIを念頭においた類型的理解とアプローチが必要という趣旨。メンバーが協力して事例研究を行っており、ポストマージャーという難しいテーマに取り組んだ労作と評価。
 
《佳作》
「M&Aと株式所有構造に関する実証分析」
宮崎浩伸氏
株式所有構造がM&A行動に及ぼす影響を計量分析により明らかにする研究。先行研究は、イベント・スタディを用いた研究がほとんどであるが、本研究は質的選択モデルによる分析を行った点が特徴。質的選択分析によると、役員による所有比率が、M&Aの誘引となっており、インセンティブが働いていることが明らかにされている。あわせて行った株価反応モデル分析においては、M&Aの超過収益率がプラスであり、概ね投資家がM&Aを評価しているという点、役員による株式所有比率が高い会社も超過収益率がプラスである点が確認された。ユニークで切り口が鮮明であり、優れた研究と評価。
《佳作》
「コストリーダーシップ戦略を主戦略とする企業の高付加価値・高価格ブランドの構築のためのM&A戦略についての考察」
小田切潤氏
コストリーダーシップ戦略を主戦略とする企業として、ファーストリテイリングをとり上げ、同社の高付加価値・高価格ブランド構築のためのM&A戦略を提言するもの。トヨタのレクサスの米国での導入成功例と花王のキュレル買収事例の考察から、コストリーダーシップ戦略を主戦略とする企業が、高付加価値・高価格ブランドを構築するための八つの成功要因を分析。ファーストリテイリングのM&A戦略として、国内アパレル企業S社の買収案を提案している。M&A戦略提案書に近いものではあるが、ブランドを切り口としたM&A戦略の分析提案はユニークであり、RECOF賞らしいと評価。

バックナンバー

おすすめ記事

アクセスランキング