[寄稿]

2019年7月号 297号

(2019/06/17)

デジタルエコノミーにおける企業結合規制~プラットフォーマーが当事者となるM&Aと独禁法上の論点~

池谷 誠(デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 マネージングディレクター)
髙島 彰浩(デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 シニアアナリスト)
  • A,B,EXコース
1. はじめに

 デジタルエコノミーを際立たせている特徴の一つは、規模の経済である。すなわち、プラットフォーマーなどが提供するデジタルサービスのコストは、ネット上の多数の利用者数に比べて低く、限界利益が極めて高い。また、SNSなどで顕著なように、デジタルエコノミーにおいては、多くの場合、利用者が増加するほどサービスの利便性が向上するというネットワーク効果が生じ、プラットフォームにおける一つのサービスの利用者増加が、他のサービスの価値を高めるという多面性も存在する。これらの特徴は、デジタル市場においてプレゼンスを確立し、サービスの基礎となる大量の顧客データを保有する既存プレーヤーに対して有利に働く。データが集中することにより、利用者の効用が増加していく一方で、他のプラットフォームに切り替える(利用者にとっての)スイッチングコストが上昇し、独占化、寡占化が進みやすいとされる。

 このような有利な地位を利用して、デジタル市場の既存プレーヤーが新規参入を阻んだり、競争制限的な行動をとるのではないかという問題意識が高まる中、各国の競争法当局がデジタルエコノミーにおける新たな規制の枠組みを探るべく、対応を進めている。我が国においては、公正取引委員会(以下、「公取委」という)が設置した「データと競争政策に関する検討会」において基本的な論点整理が行われたほか、「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会(注1)」が昨年12月に中間論点整理を発表し、プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則を公表した。海外においても、OECDが2016年に先駆的なディスカッションペーパー(注2)を発表したほか、本年4月には、欧州委員会の委託を受けた調査報告書「デジタル時代の競争政策(注3)」が発表され、論点整理と新たなアプローチの方向性が示されている。

 プラットフォーム・ビジネスでは、プラットフォームのもとに異なる複数の利用者層が存在し、全体で一つのエコシステムを形成することから、これら多様な利用者にとって不合理に不利益とならないよう、規制の枠組みを構想するのが現下の競争法当局の課題の一つであるが、本稿では競争法のもう一つの主眼である、企業結合規制に焦点をあてる。わが国の公取委および海外の当局による企業結合審査の結果、市場における競争制限的な影響が重大であると判断された場合、審査期間の長期化や問題解消措置、(稀ではあるが)排除措置命令など、M&A計画が変更を余儀なくされるリスクがあるが、デジタルエコノミーにおいてプラットフォーマー等が当事者となるM&A(反対当事者としてオフライン企業が当事者となる場合も含む)に対してどのようなポイントが審査で重視されるのか、その方向性を検討する。なお、本稿において述べた意見は筆者らの個人的見解であり、筆者らが所属する組織の意見を代表するものではない。


2. 届出基準

 企業結合審査の最初のハードルは、届出基準に該当するかどうか、である。我が国においては、M&A当事者のいずれかの会社の国内売上高が200億円を超え、かつ、他のいずれか1社に係る国内売上高が50億円を超える場合、事前の届出が必要となる。海外の主要国も同様に、

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