レコフデータは1985年以降のM&Aデータベースを構築しています

キーワード 一覧

[寄稿・寄稿フォーラム]

2017年9月号 275号

(2017/08/15)

アメリカにおける買収価格評価訴訟の機能と裁判所の役割

 吉村 一男(一橋大学大学院国際企業戦略研究科)

1.はじめに

  アメリカでは公表されたM&Aのほとんどが何らかの訴訟の対象となっているが(注1)、2000年以降、株主が「買収価格」の評価(アプレイザル)を裁判所に求め、裁判所が株主の法益を保護するという観点から「公正な価格」を決定する訴訟(アプレイザル訴訟)が増加している。2000年1月1日から2014年12月31日までの15年間で、買収対象会社がデラウェア州の会社であるM&A取引は2463件、売却、スピンオフ、または買戻しを除くM&A取引は1566件あり、そのうちアプレイザル訴訟を伴うM&A取引は225件あるところ、アプレイザル訴訟の申立て件数は最初の3年間では毎年約5件、全体の2〜3%しか占めていなかったが、過去4年間では毎年約20件、全体の20~25%を占めるまで増加している(注2)。そして注目すべきは、アプレイザル訴訟を申し立てた株主の構成が個人株主からヘッジファンドに移行していることである【Figure 1】(注3)。

Figure 1. Appraisal Petitioners and Their Investments, 2000-2014 (Total Dollar Volume)

2.ヘッジファンドのアプレイザル訴訟によるガバナンス

  コーポレート・ガバナンスは、経営者の利益と株主の利益が一致しないため、株主に発生する経営者を監視(モニタリング)するコスト(エージェンシー・コスト)をいかに削減するかという問題を解決する仕組みであるが、アメリカでは1980年以前、当該仕組みは相対的に機能していなかった。しかし、1980年代初めにはテイクオーバーの活動が加速し始め、10年間の大半はブームとなり、レバレッジド・バイアウト(LBO)と敵対的買収が増加し、株主価値を追求しない経営者に対する規律が進み、これがコーポレート・ガバナンスの役割を果たしていた。前者は1984年から1990年にかけて非常に盛り上がり、多くの企業が、自己株式を買戻し、また、買収資金を借り入れ、LBOで非公開になった。また、後者は、アメリカの主要企業のほぼ半数が買収提案を受けたといわれるほど増加し、多くの企業は、それほど魅力的でない目標を達成するため、敵対的圧力に対応して再編した。

  1980年代の終わりには、反TOB法の制定、レバレッジに対する顕著な政治的圧力、高利回り債券市場の崩壊、信用収縮などのため、LBOと敵対的買収は大幅に減少した。しかし、1990年代、経営者はLBOと敵対的買収の成功を観察し、株主価値を追求する潜在的な利益を認識したため、①インセンティブに基づく経営者報酬の増加、②資本コストを認識した経営、③業務執行の監督機関(独立取締役)によるモニタリングの強化など、他のコーポレート・ガバナンスの仕組みがより大きな役割を果たすようになった(注4)。

  しかし、2000年代に入ると、企業支配市場の機能不全のほか、エンロン事件に代表されるように、インセンティブに基づく経営者報酬の乱用や独立取締役によるモニタリングの崩壊が起こる。このような中、存在感を現してきたのがヘッジファンドである。彼らは、機関投資家の事業戦略に関する具体的な代替案を提示するため、「ガバナンスの仲介者」の役割を担っており、機関投資家とともに、その議決権を利用して、経営者の監視役を務めるようになってきた(注5)。ヘッジファンドの活動は今や、プライベートエクイティ(PE)ファンドによる買収や経営者報酬に株主が総会を通じて意見表明をする制度(Say on Pay)とともに、新しい形態の株主によるモニタリングであり、エージェンシー・コストの削減につながると認識されている(注6)。そして、M&Aの局面では、集団訴訟の対象である経営者の信認義務違反に基づく差止や損害賠償の請求を含む株主訴訟がエージェンシー・コストに対処する上で重要な監視役を果たしてきたところ、株主の代理人である弁護士に対する報酬ばかり高騰し、株主に実質的な利益をもたらさないため、デラウェア州の裁判例(注7)の発展によって制約され、その有用性が疑問視されてきたが(注8)、これに代わる手段として活用されてきたのがアプレイザル訴訟である。アプレイザル訴訟は集団訴訟の対象ではなく、コスト倒れになる可能性が高いため、小株主にとってはハードルが高かったが、大規模なブロック所有者(注9)であるヘッジファンドはこれを惜しみなく利用するようになる(注10)。

3.アプレイザル訴訟の評価

  アプレイザル訴訟はどのような評価がなされているのだろうか。

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、Cコース会員、EXコース会員限定です

*Cコース会員の方は、最新号から過去3号分の記事をご覧いただけます

マールオンライン会員の方はログインして下さい。その他の方は会員登録して下さい。

[無料・有料会員を選択]

会員登録

バックナンバー

おすすめ記事

【第99回】<M&A担当者必読!>米国の対米外国投資委員会(CFIUS)及び同委員会の権限強化法(FIRRMA)の重要ポイント

座談会・インタビュー

[Webインタビュー]

NEW 【第99回】<M&A担当者必読!>米国の対米外国投資委員会(CFIUS)及び同委員会の権限強化法(FIRRMA)の重要ポイント

石田 雅彦(DLA Piper東京パートナーシップ 外国法共同事業法律事務所 コーポレート部門代表パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士)
Danish Hamid(ダニッシュ・ハミド: DLA Piper ワシントンDCオフィスパートナー)
(協力:丸山 翔太郎 [DLA Piper東京パートナーシップ 外国法共同事業法律事務所 アソシエイト 弁護士] )

「稼ぐ力」を取り戻すための「攻めのガバナンス改革」

座談会・インタビュー

[特集・特別インタビュー]

「稼ぐ力」を取り戻すための「攻めのガバナンス改革」

 冨山 和彦(経営共創基盤 代表取締役CEO)

[座談会]M&A関連法制と実務の最新動向[2018年版]~変動する米国・国際社会と国際M&A実務への影響~

座談会・インタビュー

[対談・座談会]

[座談会]M&A関連法制と実務の最新動向[2018年版]~変動する米国・国際社会と国際M&A実務への影響~

池田 祐久(シャーマン アンド スターリング外国法事務弁護士事務所 東京事務所代表 外国法事務弁護士)
中山 龍太郎(西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士)
武井 一浩(西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士)(司会)

M&A専門誌 マール最新号

アクセスランキング

M&Aフォーラム
NIKKEI TELECOM日経テレコン
日経バリューサーチ

M&A専門誌マール

M&A専門誌マール

「MARR(マール)」は、日本で唯一のM&A専門誌で、「記事編」と「統計とデータ編」で構成されています。

レコフM&Aデータベース

レコフM&Aデータベース

「レコフM&Aデータベース」は、日本企業のM&Aなどどこよりも網羅的に、即日性をもって構築している日本で最も信頼性の高いデータベースです。

セミナー

セミナー

マールの誌面にご登場いただいた実務家、研究者などM&Aの専門家を講師としてお招きし、成功に導くポイント、M&Aの全体プロセスと意思決定手続き、実証研究から見た分析などについてご講演いただきます。

SPEEDA RECOF

SPEEDA RECOF

「SPEEDA RECOF」とは「レコフM&Aデータベース」と株式会社ユーザベースが開発・運営する企業・業界情報プラットフォームである「SPEEDA」がシステム連携します。

NIKKEI TELECOM日経テレコン 日経バリューサーチ

日経テレコン

2002年7月に、日本経済新聞デジタルメディアが運営する日経テレコンの「レコフM&A情報」を通じてM&Aデータの提供を開始しました。

M&Aに関するお問い合わせ、ご相談は
こちらからお気軽にお問い合わせ下さい。

お問い合わせフォーム