[寄稿]

2018年9月号 287号

(2018/08/15)

公取委「事例集」に見る企業結合審査の最新事情(平成29年度)

~垂直型統合における留意点とM&A実務に与えるリスク管理~

池谷 誠(デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 マネージングディレクター)
  • A,B,EXコース
1. 企業結合審査のリスク

 わが国および主要国の競争法の下では、M&Aが市場における競争を実質的に制限することとならないかを判断するため、M&Aの計画のうち、一定の要件を満たすものについては事前届出の義務が課されている。そして、わが国の公正取引委員会(以下、「公取委」という)および海外の独禁当局は、審査の結果、競争制限的な影響が重大であると判断した場合、問題解消措置を求める、あるいはM&A自体を排除する場合がある。結果的に問題なしと判断された場合でも、詳細な検討が必要と判断された場合には、審査期間が長期化しM&Aプロセス全体が先延ばしされてしまうというリスクもある(図表1参照)。

図表1 企業結合審査のフローとリスク(イメージ)

 そのようなリスクが顕著に表れた最近の事例としては、ふくおかフィナンシャルグループ(FG)と十八銀行の事例が広く知られている。平成28年6月の審査申請以来、すでに2年以上が経過している。ふくおかFG傘下の親和銀行と十八銀行が統合すれば、長崎県内の貸出金シェアは単純合算で7割に達するが、公取委は統合が金利上昇や貸し渋りにつながると懸念、当事会社が他行への債権譲渡など問題解消措置を提案しているものの解決を見ていない。
 このような独禁法上のリスクは、M&Aの成功を占ううえで重要な意味を持つといえるが、実際、当局からの介入によってM&A計画が影響を受けるリスクはどの程度あるのだろうか。図表2は、本年6月に発表された、公取委「平成29年度における主要な企業結合事例について」(以下、「事例集」という)などに基づき、近年の届出の処理状況をまとめたものであるが、届出のあったM&A計画のほとんどは、第1次審査で終了、すなわち、比較的早期の段階で問題なしと判断されゴーサインが出ている。全体の届出件数との対比では、第1次審査で終了した件数の比率は、近年95%~98%程度で推移している。換言すれば、およそ2%~5%の確率で、第2次審査への移行によりM&Aのプロセスが長期化するリスクがあるといえる。
図表2 わが国におけるM&A計画の届出と処理状況
 H25H26H27H28H29
届出件数合計264289295319306
うち第1次審査で終了したもの257275281308299
 (対合計比%)97.3%95.2%95.3%96.6%97.7%
うち第2次審査で終了したもの32431
うち問題解消措置を前提に問題なしとしたもの12130

注:公取委「平成29年度における企業結合関係届出等の状況」1~2頁、などより著者作成、同一事務年度での届出と、審査終了等はタイムラグがあるため、合計は一致しない。

 しかし、実務においては、任意ではあるものの届出前相談を利用する例も多く、正式な企業結合計画の届出の前から実質的な審査が始まる場合もある。比較的リスクの高いケースはそのような事前プロセスに予想以上の時間を要する、あるいは問題解消措置を自主的に提案することが求められる場合もある。実際、公取委によれば、第1次審査で終了した事例についても、当事会社による問題解消措置の申出があり、これを前提として独禁法上の問題がないと判断した事例が平成29年度において6件あった。すなわち、実際には数字として見える以上に企業結合審査のリスクが潜んでいるといえる。


2. 垂直型企業結合の増加傾向

 企業結合の形態別でみると、

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