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[M&A戦略と法務]

2019年4月号 294号

(2019/03/15)

産業競争力強化法改正における商取引債権考慮規定の創設

相澤 豪(TMI総合法律事務所 パートナー)
第1 はじめに

 企業買収に興味がある場合、FAなどから私的整理手続中またはその予定の企業について支援の打診がある機会もあると思われる。だが、私的整理は、対象となっている債権者全員の同意がなければ成立しないことから、その成立を確実に見込むことは難しい。そのため私的整理中の企業に対しスポンサー候補として支援の手を挙げることに躊躇を覚えることもあろう。他方で、仮に私的整理が不成立となったとしても、法的手続で事業の毀損を抑えつつ私的整理での計画とほぼ同様の形で事業を承継することができるのであれば、スポンサーとしても、安心して支援に前向きな対応をとれると考えられる。

 この点、昨年7月に、産業競争力強化法(以下「産強法」という)が改正され、事業再生ADR(注1)による私的整理の場合に、同手続が不成立になって法的手続に移行した際の商取引債権保護に関連する規定が創設されたことにより、事業再生ADRから、法的再建手続への円滑な移行が期待されるので、これについて紹介したい。


第2 問題の所在

 私的整理は、対象となる債権者の一人でも反対すれば不成立となることから、仮に計画自体が合理的なものであっても、成立しないリスクを大きく孕む。経済合理性がある計画であれば、多くの債権者が同意する傾向にはあるが、貸付や返済の経緯次第では、同様の事態の再発を防ぐ観点などから、一部の債権者が反対に固執することも少なくはない。そして、私的整理が不成立となれば、事業を維持するには民事再生や会社更生などの法的手続に入らざるを得ないが、法的手続では、私的整理では対象となっていなかった商取引債権者の債権も手続の対象となって影響を受けるため、債務者の事業にとって重要な取引先から取引を拒否されることになりかねない。そうなれば、事業の価値は毀損し、スポンサーにとっての魅力も薄れてしまい、場合によっては支援の価値もない状態になってしまいかねない。

 もちろん、私的整理が先行することなく法的手続に入った場合でも、商取引債権者が巻き込まれることは避けられないところであるが、特に、私的整理が先行する場合は問題が多い。というのも、仮に私的整理中にその事実が開示されれば(上場企業における事業再生ADRなど)、商取引債権者としては、債務者の危機的状況を知ることになるから、その時点で取引を控えかねない。他方で、私的整理であることを開示せずにいれば、私的整理中は取引を従前どおり継続できるが、法的手続に入った時点で、私的整理に入るほどの危機的状況であることを黙って取引を続けたことが発覚し、それが商取引債権者にはいわば一種の取り込み詐欺のように受け取られて反感を買い、法的手続に入った時点で取引が打ち切られることも十分に見込まれる。つまり、事業の毀損を防ぐべく商取引債権を対象外とした私的整理を試みることは、不成立となって法的手続に入ることになると、逆に事業毀損のリスクを高めてしまう面があるとも言えよう。

 しかし、私的整理は、法的整理と比べて事業毀損を防げることや原則として事業再生の事実が公知にならないなどのメリットがあることから、成立が見込まれるのであれば、まずは特段のリスクを負うことなしに私的整理を試みられるような制度が政策的に望ましいと言え、そのような制度について議論が進められている。もちろん、端的な解決方法としては、私的整理を対象債権者の多数決で成立させられるようにすることが考えられるが、それは憲法上保障された財産権保護の観点から導入が難しい。その他、具体的な立法提言は複数なされているが(注2)、そのような経緯の中、今般導入されるに至ったのが、事業再生ADRにおける商取引債権考慮規定である。


第3 改正の内容

1. 法的手続における商取引債権者保護

 まず、今回の改正の前提として、法的手続における商取引債権の保護の方法は、以下のとおりである。

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