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[M&A戦略と法務]

2020年2月号 304号

(2020/01/20)

株主還元関連議案の株主提案

小川 周哉(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)
吉井 翔吾(TMI総合法律事務所 弁護士)
1. はじめに

 12月決算企業の定時株主総会準備が本格化し、ほどなく3月決算企業の決算に向けた動きも本格化する時期となった。ここ最近は、株主総会における株主提案の増加が著しく、株主総会において株主提案議案が付議された上場会社は、2017年7月から2018年6月までで53社、2018年7月から2019年6月までで65社にのぼる(注1)。

 株主提案の内容は様々であるが、中心的なアプローチである役員の選解任議案及び定款変更議案とともに、近時は(ⅰ)剰余金の配当、又は(ⅱ)自己株式の取得という形で株主還元の強化を求める議案が目立つ。特に、ROEが低調に推移している企業に対し(※)、その改善を求めてこれらの議案が提案されるケースが増えているほか、上場会社のM&Aプロセスに介入するいわゆるM&Aアクティビストが、当該M&Aにおける対価の是正等を目的として株主還元策の強化を主張するような場面も増えてきているように感じられる。

※ いわゆる伊藤レポートがROE8%という明確な水準を提唱し、議決権行使助言会社であるISSが「5期平均ROEが5%を下回る企業の経営トップに反対推奨」をすることを公表して以降、ROEが低調に推移する企業は、我が国で活動するアクティビストからターゲットにされやすい傾向が顕著になっている。また、典型的なアクティビストではない株主からも、低調なROEは現経営陣に対する批判のテーマの一つとなることが多い。

 全体として効率性、資本コストを意識した経営という発想が浸透しつつある中でのこのような動きからすれば、今後も、上場会社に対し、株主還元の強化ないしは実施を求める株主提案が活発に行われていくことが予想される。現に、2019年6月総会における株主還元関連議案の平均賛成率は22%近くに上っており、上場会社の経営陣として一定程度以上の意識を割かざるを得ないテーマになりつつあると言えるだろう。一方で、株主還元は株主に直接的に払い出しが行われることもあり、法的な観点はもちろん、実務的な観点からも検討すべき事項が多い。筆者らは、主として会社側で日々株主提案事案への対応に当たっているものであるが、議案の採り上げ方やスケジュール設定など、根本的な処理方針について迷うことも少なくない。

 そこで、本稿では、株主から株主還元の強化ないしは実施を求める株主提案が行われた場合に、会社側において検討すべき事項を整理することを試みたい(株主提案を受けた会社は、まず、株式保有要件や行使期限など、当該株主の権利行使が法定の権利行使要件を充足しているか否かの審査を行うことになるが、この点については紙幅の都合上割愛する)。なお、以下では、対象会社は取締役会設置会社で、剰余金の配当等の決定について株主総会の権限を排除する定款の定めがないことを前提とする。


2. 剰余金の配当に関する株主提案

 剰余金の配当に関する株主提案がなされた場合、提案を受けた会社側では、まず、少なくとも、①会社提案議案との関係性、②分配可能額規制、及び③配当金の支払事務についての検討が必要になる(※)。以下では、①~③の分析と共に、近年見られる④現物配当に関する議案(政策保有株式を配当財産とする現物配当)(注2)についても簡単に触れることとする。

※ もちろん、提案者も一定以上のロジックをもって当該提案をすることが多いから、実際上は、そのような提案を受けた背景、理由との関係で当該提案をどのように整理すべきか、会社側としてどのような意見を形成していくべきかという論点が、最も重要であることが多い。この論点は、ガバナンスの理論、市場におけるトレンド、将来の選択肢の制約回避など、多角的な観点から分析、検討することが求められる。

(1)会社提案議案との関係性の整理

 剰余金の配当に係る株主提案がなされた株主総会において、会社も剰余金の配当に係る議案を付議する予定である場合、両議案の関係を整理する必要がある。すなわち、当該株主提案議案は、会社提案議案と両立する追加提案なのか、択一的な関係にたつ代替提案(両者が論理的に両立しない場合に限らず、提案の趣旨から判断して会社提案議案との二者択一の決議を求める場合も含む)なのかを整理する必要がある。この整理によって両議案の審議・採決の方法等も変わり得るため、実務上、これは相当に重要な判断であり、更に、当該取扱いが著しく不公正であるような場合には、株主総会決議の取消事由となる可能性もあるため、慎重な判断が求められるものでもある。

 一方で、会社法には株主提案議案の分析に資する具体的な規定が置かれているわけではない。「株主総会は株主の意思を会社運営に反映させる機会である」といった基本的、かつ、抽象的な概念に基づいて、株主提案議案の趣旨を汲み、尊重し、また、議決権を行使する株主の意思が適切に反映されるようにケース・バイ・ケースで両議案を処理しなければならないことになる。以下では、提案株主が、会社が提案するよりも、高い金額の剰余金の配当を求める場合(ケース1)、低い金額の剰余金の配当を求める場合(ケース2)、及び同額の剰余金の配当を求める場合(ケース3)に分けて、検討してみよう。

【ケース1】
会社が「剰余金の配当を1株あたり50円とする」ことを内容とする議案を提出し、株主が「剰余金の配当を1株あたり100円とする」との議案を提出した場合

 通常、株主提案が行われるタイミング(株主総会の8週間前まで)では、株主が当該株主総会に付議される会社提案議案の内容を知ることはできない。そのため、株主は、特に留保をしなければ、会社側の議案の内容にかかわらず、自らが提案する金額の配当を行うべきとの趣旨で提案を行うことになる。したがって、提案中に何らか留保がなされていない限り、株主提案議案は代替提案(すなわち「1株あたり50円という会社提案に代えて、1株当たり100円の配当を求める」趣旨である)と整理するのが合理的である。

 しかし、例えば、会社提案の1株50円とは別に、

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