[M&A戦略と法務]

2020年4月号 306号

(2020/03/16)

上場会社が第三者割当により株式を発行する場合の制度概要

~募集事項に沿った規制・手続及び留意点~

和藤 誠治(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)
  • A,B,EXコース
第1.はじめに

 上場会社における資金調達手段は、大きく、借入れ(デット)による調達、株式等(エクイティ)による調達に分けられる。株式等による調達は、その調達方法に応じ、公募、株主割当、第三者割当の方法に分けられる。

 その中で、第三者割当の方法による資金調達は、公募に比して引受審査に伴う時間や手数料がかからない、事前に予定する金額を調達できる可能性が相対的に高い、割当先が見つかれば業績が悪化したり資金繰りに窮していたりしても資金調達が可能である、割当先との提携目的でも利用可能である等のメリットが存在する。

 このようなメリット等を踏まえ、第三者割当は、上場会社の資金調達手段として、多数の会社で活用されており、今後も、活用が想定される、効果的な資金調達手段であると考えられる。

 一方、上場会社が、第三者割当の方法で資金調達を行う場合、会社法、金融商品取引法(以下「金商法」という。)、証券取引所規則等の様々な規制が問題となり、対応が求められるため、当該規制の概要を把握しておくことが重要である。

 そこで、本稿では、上場会社が資金調達目的で第三者割当により株式発行を行う事例を念頭に、株式発行を行う会社(以下「発行会社」という。)において問題となる会社法、金商法、証券取引所規則上の主な規制・手続の概要を説明し、あわせてスケジュールにも言及することとしたい。

 なお、証券取引所規則については、他の取引所規則も概ね同内容であるが、株式会社東京証券取引所(以下「東証」という。)が定める有価証券上場規程(以下「上場規程」という。)及び有価証券上場規程施行規則(以下「施行規則」という。)を前提とする。


第2.募集事項における検討項目

 上場会社が第三者割当により株式発行を行おうとする場合、まずは、会社法や適時開示における募集事項の概要等を検討することとなる。募集事項の概要等には、調達資金総額、募集株式の払込金額(1株と引換えに払い込む金銭)、募集株式の数、割当予定先、払込期日等が含まれるが、各項目に応じて関連する規制や手続が存在し、当該規制の適用関係如何でスキーム・スケジュール等に影響が生じるため、以下では、募集事項における主な検討項目ごとに、関連する規制・手続とその留意点を概説することを試みる。

募集事項における主な検討項目関連規制・手続
(1) 調達資金総額がいくらか。適時開示、有価証券届出書提出の有無
(2) 1株当たりの払込金額がいくらか。有利発行規制
(3) 発行する株式数による希薄化率はどの程度か。その結果、支配株主の異動を伴うか。企業行動規範、特定引受人に係る規制、上場廃止基準(株主の権利の制限等)
(4) 第三者割当の割当先の属性反社調査、上場廃止基準(不適当合併)

第3.関連する規制・手続とその留意点

1.調達資金総額に関連する手続

 調達資金総額は、基本的には、具体的資金使途(運転資金、設備投資費用、研究開発資金、MA資金等)に応じた資金ニーズにより決まってくると思われるが、中には、提携関係強化や債務超過解消も企図される結果、調達資金総額が変動する事例もあると思われる。調達資金総額が1億円以上か1億円未満かにより、適時開示の有無、有価証券届出書提出の有無等、必要な手続、期間が異なってくる。

(1)調達資金総額が1億円以上の場合

 上場会社が第三者割当により株式発行を行うに際し、調達資金総額が1億円以上の場合には、

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