[M&A戦略と法務]

2020年5月号 307号

(2020/04/15)

アクティビストによる買収防衛策廃止を議案とする総会招集申立事件の明暗

中川 秀宣(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)
  • A,B,EXコース
<総括>
株主総会で買収防衛策の廃止を求める動きは活発化すると予想される。その請求は、定款で買収防衛策を排他的な総会決議事項と読めるように規定しているか否か、裁判所は株主が濫用的買収者に類する利己的な投資家と評価するか逆に経営陣が保身のために買収防衛策を利用していると評価するか、買収防衛策の導入と株主による株式の取得の先後関係、等により結論は変わると考えられる。

1.本稿の目的

 定時株主総会での買収防衛策の廃止を議案とすることを求めた第1事件(第1事件:(株)レノvsヨロズ(株) 注1)では、申立者である株主の請求が却下されたのに対し、買収防衛策の廃止を議案とする臨時株主総会招集の仮処分申立て事件(第2事件:アルファレオホールディングス(合)vs乾汽船(株) 注2)では、申立が認められ臨時株主総会の招集が許可され、その明暗が分かれることとなった。両事件の経緯については表1を参照いただきたい。株主には、会社法第304条に基づき株主総会での議案提出権が、また同法第279条に基づき株主総会招集請求権が、それぞれ認められているところ、第1事件及び第2事件共に、株主総会で導入を承認された買収防衛策について、その廃止についても総会決議事項として、総会の議案足り得るかが争点とされた。本稿は、同種の事案において明暗を分けた差異がどこにあったのかを分析することを目的とする。なお、第2事件の裁判所の決定原文は未だ公表されておらず本稿には伝聞と推測に基づく記述があることはご容赦いただきたい。(注3)

表1)第1事件((株)レノvsヨロズ(株))と第2事件(アルファレオホールディングス(合)vs乾汽船(株))の経緯比較
ヨロズ(株)乾汽船(株)
2009/6月定時総会で買収防衛策導入
2012/6月定時総会で買収防衛策継続
2015/6月定時総会で買収防衛策継続
2018/6月定時総会で買収防衛策継続
2019/4/9レノ定時総会での議案提出(提案は以下の通り)
(1)買収防衛策の廃止
(2)政策保有株式の売却
(3)自社株買いを含む株主価値向上策の実施
5/10レノ買収防衛策廃止を定時総会の議題等としてする株主提案議題等記載仮処分命令申立て
5/20横浜地裁却下決定
5/21レノ抗告申立
5/27東京高裁抗告棄却
2008/2月定時総会で買収防衛策(旧)導入
2010/6月定時総会において買収防衛策継続せず
2019/6/21定時総会にて買収防衛策可決
9/6アルファレオ定時総会決議の取消訴訟提訴
9/11アルファレオ臨時総会招集請求(提案は以下の通り)
(1)取締役の報酬総額(年額)の引き下げ(年額2億円以内から年額9000万円以内に)
(2)余剰金の配当(1株につき38.28円)
(3)取締役1名解任(乾康之代表取締役社長を対象)
(4)自己株式取得(政策保有株式を売却し、その資金で22億円の自社株買い)
(5)買収防衛策廃止(アルファレオを狙い撃ちにしたものであり経営者の保身のための導入である)
10/7乾汽船臨時総会招集(11/4)決議(但し、(5)買収防衛策廃止を議案に含めない)
10/11アルファレオ防衛策の廃止を議案とする臨時総会招集申立(11/4開催の臨時総会で議案として取り上げられなかったことを理由とする)
12/3アルファレオ取締役解任訴訟提訴
2020/3/6臨時総会招集許可決定
乾汽船抗告せず

(注) 下線は筆者による強調(次表以下においても同様)。



2.アクティビストが買収防衛策の廃止を議案として臨時株主総会の招集を求める可能性は今後高まる

 第1事件は臨時株主総会の招集を求めるものではないが、第2事件のアクティビスト側の勝利を受けて、今後、同様に買収防衛策の廃止を求める臨時株主総会の招集請求が増加する可能性がある。総会における議決権行使については一定数白紙票(賛否いずれにも〇を付していない議決権行使書が返送されてくる)が存在する。総会招集を行う者は、会社法施行規則第63条第3号二及び同第66条第1項2号に基づき、招集通知に賛否の表示がない場合は賛成として取り扱う旨を記載することができる(注4)ため、株主にとっては招集を行うことを裁判所に認められれば総会運営において有利となる。そのため、株主の臨時株主総会招集請求が裁判所において認められる可能性が高い場合には、会社側も争わずに自ら臨時株主総会を招集する方が得策とも考えられている。アクティビストが臨時株主総会の招集請求を行うに際して会社法上の総会決議事項である取締役の選解任や防衛策廃止の定款変更を議案とせずに買収防衛策の廃止という会社法上の総会決議事項ではない事項を敢えて議案として臨時株主総会の招集請求を行い会社に争ってもらう背景として、裁判所に認められた場合にそれなりのメリットが存在するという理由がある。


3.争点は3つ((ア)定款の解釈、(イ)権利濫用か否か、及び(ウ)保全の必要性の有無)

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