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[M&A戦略と法務]

2020年6月号 308号

(2020/05/19)

ベネルクス企業買収にあたっての留意点

田中 健太郎(TMI総合法律事務所 弁護士)
第1 はじめに

 ベネルクス(Benelux)は、ベルギー(Belgium)、オランダ(Netherlands)及びルクセンブルグ(Luxembourg)の三国の頭文字を繋げた言葉であり、これらの三国を総称した名称である。ベネルクス三国の国土は非常に小さく、3つ合わせても日本の北海道ほどの大きさしかない。

 しかしながら、ベネルクス三国は、相互の経済協力を行なうことで周囲の大国に対抗してきた。ベルギーのブリュッセルやルクセンブルクのルクセンブルク市は、EUの政治的中心都市でもあり、オランダは世界的に有名な物流拠点と言え、ベネルクスは欧州においても重要なエリアであると言える。

 また、ベネルクス三国には、金融、IT、物流、再生エネルギー等の分野で魅力的な企業が存在し、また、政治が安定し、基本的に治安が良く、英語を含む複数の言語を話すことができる人材も多い。

 日本企業によるベネルクスの企業に対するM&Aはそこまで多くはなかったが、日本企業が海外M&Aを活発に行うようになったことに伴い、徐々に増えてきているように思われる。例えば、2020年3月に、三菱商事株式会社と中部電力株式会社は、両社が共同で設立したDiamond Chubu Europe B.V.を通じて、欧州で総合エネルギー事業を展開するオランダ企業であるEneco社の全株式を約41億ユーロ(約5000億円)で買収した案件や、2019年に、日立キャピタル株式会社が、欧州における子会社であるHitachi Capital Mobility Holding Netherlands B.V.を通じて、ベルギー においてモビリティサービスを 展開する Mobilease Belgium 社の全株式取得をした案件は記憶に新しいであろう。

 ベネルクス各国においても違いはあるが、本稿では、今後ベネルクス企業の買収を検討する日本企業のために、ベネルクスの非上場会社を買収するにあたって事前に把握しておいた方が望ましい基本的なポイントをいくつか紹介することとしたい。


第2 日本とのM&Aプラクティスの違い

1. 背景

 ベネルクスのM&Aにおいても、非上場会社を対象会社とする場合には、日本と同様に、株式譲渡契約や資産譲渡契約が用いられることが一般的であり、前文が記載される点を除き、株式譲渡契約や資産譲渡契約の項目自体は日本と共通するものが多い(なお、本稿では株式譲渡取引であることを念頭に論じる。)。

 しかしながら、日本のM&Aは、米国に留学をした弁護士が米国実務を踏まえて輸入したものであるため、米国のプラクティスに大きな影響を受けている一方、ベネルクスのM&Aにおけるプラクティスは、米国に由来するものではないことから、個別の項目の中で、日本や米国のプラクティスと異なる点が比較的多く見受けられる。
 
2. 価格決定の仕組み

 ベネルクスを含む欧州のM&Aでは、日本とは異なり、他の欧州諸国と同様に、価格決定の仕組みとして、ロックドボックスという仕組みが用いられることが比較的多い(注1)。

 ロックドボックスとは、株式価格を決定した評価基準日を設け、取引実行日までに、株式契約書上定めた対象会社の価値を流出させる行為(リーケッジ)が発生した場合には、譲渡価額を減額させる仕組みのことをいう。

 American Bar Associationが2020年に公表したEuropean Private Target M&A Deal Point Study(以下「European Deal Point Study 2019」という)によれば、調査対象のうち約64%の取引においてロックドボックスの仕組みが用いられていたとのことである。

 リーケッジの具体例としては、対象会社グループによる売主グループに対する配当、対象会社グループによる売主アドバイザーに対する支払いなどが規定されることが多い(注2)。

 PEファンドが一方当事者のようなケースでは、リーケッジの具体的な内容が一方的にPEファンドに有利な内容になっていることもあるため、その内容を精査し、明確な規定を設ける必要がある。また、対象会社の通常の事業の過程で売主グループに支払われる金額(例えば、売主に対する一定額のマネジメントフィーの支払いや過去の実務に沿った形で通常の業務の範囲内行われる基礎賃金又は時給の増額等)は「許容されたリーケッジ」としてリーケッジの対象から除外されることから(注3)、許容されたリーケッジについてもリーケッジの規定と併せて精査する必要がある。

 なお、評価基準日に本来的には代金が支払われるべきであったことを前提に、売主から買主に対して評価基準日から取引実行日までの期間に相当する一定の利息の支払いを求められることがある点に留意が必要である。

3. アーンアウト

 日本のM&Aにおいては、スタートアップを対象とするM&A取引を除き、アーンアウト(クロージング後に一定の条件が達成されたことを条件として買主が売主に対して買収対価を追加的に支払う規定)が設けられることは少ないように思われる(注4)。

 他方、ベネルクスのM&Aにおいては、

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