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[M&A戦略と法務]

2017年12月号 278号

(2017/11/15)

法務デューデリジェンス標準化の試み

 佐藤 義幸(TMI総合法律事務所 弁護士)

1 はじめに

  「デューデリジェンス」、「デューデリ」、「DD」という言葉もずいぶんとポピュラーになった。M&Aの際には、財務面だけではなく法務面でも対象会社や事業などの調査を行うことも珍しくなくなってきた。だが、小規模のM&A案件の場合やスタートアップ企業に対する出資案件の場合となると話は変わってくる。コスト面の制約から、デューデリジェンスを行う場合でも、財務面が主となり、法務面まではなかなか手が回らないケースも依然として多い。

  しかし、法務デューデリジェンスは、その果たしうる役割を考えると、もっと活用されてしかるべきであろう。M&Aの場合に限らず、企業が自社の法務体制のセルフチェックを行うツールとして活用できれば、企業価値の毀損を早期に防止することも可能となろう(注1)。

  こうした観点から、筆者は、法務デューデリジェンスがより幅広い範囲で活用されることを期待して、昨年(2016年)9月に書籍『法務デューデリジェンスチェックリスト』(注2)を刊行し、法務デューデリジェンスにおける「資料請求リスト」と「チェックリスト」の標準化を試みた。

  本稿では、その一部を紹介するとともに、法務デューデリジェンス標準化の試みの狙いについて解説することとしたい。

2 法務デューデリジェンスの抱える問題

  法務デューデリジェンスを語る場合、そのコスト問題は避けて通れない。高コストであるが故に、実施されるケースが限定されてしまい、本来は必要なはずの会社に実施されていないという問題も生じている。また、コストをかけてせっかく発見された法的問題も、必ずしも対象会社にフィードバックされるとは限らず、闇に葬られることも少なくない。

(1) 高コスト

  法務デューデリジェンスで取り扱う分野は、「会社組織」「株式」「契約」「資産」「負債」「知的財産」「人事労務」「許認可および規制遵守」「訴訟その他の紛争」など多岐にわたり、各分野においてそれなりの知識と経験が必要になる。そのため、法務デューデリジェンスを1人の弁護士だけで行うことは難しく、特定の分野に精通した専門家を揃えようとすると、必然的に弁護士の数が増えていき、どんどんコストが高くなってしまう。それが、法務デューデリジェンスが高コストになってしまう要因の1つである。

  それなりの予算を組みやすい大規模な案件の場合、これらの分野ごとに複数の弁護士が担当することもあり、十数名が関与することも珍しくはない。そうなると、法務デューデリジェンスの費用だけで数千万円に及ぶこともある。ただ、弁護士にとっても「儲かる」話かといえば、必ずしもそうともいえない。「高い報酬をもらう以上は何らかの成果を出さなければならない」というプレッシャーから、必要以上に詳細な報告書になってしまうことも多い。膨大な時間が費やされた結果、ディスカウントを余儀なくされ、法務デューデリジェンス単体では「赤字」となることも少なくない。

(2) 法務デューデリジェンスが実施されないケースも多い

  逆に、中小規模のM&A案件の場合やスタートアップ企業に対する出資案件の場合、コスト面の制約から、デューデリジェンスを行う場合でも財務面が主となり、法務面まではなかなか手が回らないケースも多い。だが、特にスタートアップ企業の場合は、法務管理体制が整っていない場合も多く、本来、こうした会社にこそ、法務面でも調査を行って問題点の洗い出しを行うことが、今後の事業価値の毀損を防止する上で必要不可欠なはずである。

(3) 発見事項が対象会社にフィードバックされないことも多い

  M&Aに際して実施される法務デューデリジェンスの結果をまとめたレポートは、依頼者である投資家側に提出されるが、対象会社に開示されることはないのが通常である。買収後の統合プロセス(ポストマージャーインテグレーション<Post-Merger Integration>)において有効活用されるケースもあろうが、入札案件の場合や買収が頓挫した場合など、投資家の倉庫にしまわれ、日の目を見ることがないレポートの数の方が多いであろう。対象会社としては、多忙な業務の合間をぬって法務デューデリジェンスに協力はするものの、その「検査結果」のフィードバックを受けることが少ないのは、なんともったいない話であろう。

  法務デューデリジェンスによって得られる情報は、対象会社の価値の毀損を防止する上で極めて有益なものであり、本来、対象会社にフィードバックされるべきものであろう。

3 標準化の必要性

  対象会社の業種や規模などによって、法務デューデリジェンスの調査事項や調査方法は様々である。しかし、調査事項の7、8割は共通することが多く、検出される問題点も似たり寄ったりの面がある。それ故、法務デューデリジェンスの標準化を行おうとすれば、行えないわけでもなかった。だが、コモディティ化を促進して価格競争を招きかねないこともあり、そのような作業を行おうとする動きは見当たらなかった。とはいえ、標準化が実現できれば、次のようなメリットが得られることは確かであろう。

(1) 法務デューデリジェンスの実施範囲(スコープ)決定の容易化

  依頼主が法務デューデリジェンスについてよく分っていないと、「今回の法務デューデリジェンスは、どういった事項をどのレベル感でやりましょうか?」と聞かれた際に、「じゃあ取りあえず全部見てもらえますか?」ということになってしまいがちである。

  しかし、法務デューデリジェンスが実施される場合、財務デューデリジェンスも行われることが通常である。この場合、調査目的は異なるが、例えば「資産」と「負債」の調査項目は重複することが多い。両者の調整が行われない場合、二重の調査と報告が行われ、本来なら必要のない無駄なコストがかかってしまう。

  法務デューデリジェンスが開始される前に、どの分野のどの項目を、どういったレベル感で調査して、どのような報告を行うかについて、クライアントと弁護士が議論を行い、共通認識を持つことができれば、双方にとってコスト削減につながるであろう。その際、汎用性の高い「資料請求リスト」や「チェックリスト」のような叩き台があれば、効率的に作業を進めることができる。

(2) 企業のセルフチェックのツールとしての活用

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