[【投資ファンド】PEファンドの役割と企業価値向上の実際(カーライル・ジャパン)]

(2017/03/08)

【第3回】 いわゆる100日プランとは ―― 投資直後の3~6か月の改革

 富岡 隆臣(カーライル・ジャパン・エルエルシー マネージング ディレクター)
 渡辺 雄介(カーライル・ジャパン・エルエルシー ディレクター)
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 第1回では、PEファンドの役割、第2回では、事業会社のPEファンドの協働意義及びPEファンドの付加価値について述べたが、当第3回においては、PEファンドの企業投資後の最重要な時期ともいえる100日における活動について触れてみたいと思う。

1.100日プランとその重要性

 トランプ政権が現在進めているように、米国新政権はすべて100日プランを作成・実施している。同様に、新たな企業オーナーのもとでの最初の100日は、極めて重要である。投資直後は変化の起点である。投資直後には、経営陣・従業員をはじめ、顧客も含めたすべてのステークホルダーが不安と期待でいっぱいの状態で、PEファンドならびに、PEファンドとの第二創業を意思決定した企業トップの一挙手一投足を注目している。彼らは半信半疑で、何がどのように変わるのか、今後の方向性を冷静に見極めようとしている。こうした状況で第二創業の主役となる経営陣・従業員との間で戦略・ビジョンを共有し、具体的なアクションプランに落とし込んでいくのが100日プランである。

 100日プランにおいては、第二創業における会社の企業理念(ミッション)を確認し、社員に対して10年後に向かうべき星(ビジョン)と戦略・アクションの大きな方向性を語り掛けることが重要になる。そして、戦略を具体的なアクションプランにし、そのために必要な組織を定義し、不足している人材を補強していくことになる。以下は、一般的な100日プランのメニューである。

● コーポレート・アイデンティティー再定義
    ミッション・ビジョンの確認・再定義と社内コミュニケーション

● 「見える化」=財務会計・管理会計・PDCA(Plan計画 Do実行 Check評価 Action改善)
  サイクルの整備
    リアルタイムでの財務数値、管理数値(KPI)の把握
    KPIの定義、設定、捕捉
    見える化を促進するためのITシステムの整備

● 中期経営計画・予算策定
    事業計画の再確認または策定と具体的なアクションプランの策定

● 具体的なビジネス課題への対応
    海外展開強化
    営業管理強化
    マーケティング強化
    生産性改善
    コスト削減

● ガバナンスの整備=経営と執行の分離
    取締役会・評価報酬委員会等の整備
    経営会議等、会議体の整備
    権限規程等の整備

● 組織強化
    戦略に沿った組織変革と組織毎の役割の定義
    必要な人材補強・採用

● 評価・報酬・インセンティブ設計
    成果主義の報酬体系の導入
    直接出資・持株会・ストックオプションの導入

 100日プランのメニューを考えていくうえでいくつか重要なことがある。1つ目は、10年後のミッション・ビジョンから逆算して、戦略やアクションを考え、100日プランのメニューを絞り込んでいくということである。得てして、企業には課題が大小様々に多岐に渡り、その解決の難易度も千差万別である。すべてに取り組んでいては、いくらヒト・モノ・カネ・トキというリソース(資源)があっても足りない。結果的にどの取り組みも中途半端になり、成果も上げられず、経営陣・従業員を疲れさせてしまうだろう。そうなっては第二創業の精神からして、本末転倒である。リソースは常に限定されているので、100日プランにおいては、5年後、10年後を見据えて、課題とアクションの洗い出しと優先順位を付け、そこに注力した取り組みを行っていくことが重要である。「戦略とは何をやらないかを決めること」とよく言われるゆえんである。

 2つ目に重要なことは、①何を(WHAT)、②誰が(WHO)、③いつまでに(by WHEN)やるのかを明確にすることである。

 ①WHATとは、100日後のアウトプットを具体的に明確にすることである。アウトプットは、主にa)課題を洗い出すもの、b)アクションプランを練り上げるもの、c)最終的な結果を出すもの、の3種類がある。

 ②WHOとは、誰が責任者であるのかを明確にすることである。会社主導で進めるプロジェクト、PEファンド主導で進めるプロジェクト、協働で主導するプロジェクトかを規定し、具体的な固有名詞で責任者を決め、WHATのアウトプットに対する責任を明確化することが重要となる。そして、興味深いのは、そうすることで、100日プランに参画している経営陣・従業員の能力がよく見えるようになり、また、次世代経営陣候補の若手の潜在力を引き出すことが可能となることである。弊社の投資先では、この100日プランを通して、それまでは埋もれていたにもかかわらず、頭角を現した次世代リーダーは数多く存在する。

 ③by WHENとは、期日とマイルストーンとその時までのアウトプットを定義し、常にPDCAサイクルを回し、状況を確認し、次までのアクションを決めていくことである。こうすることで、実行されずに放置されるプロジェクトがなくなっていき、100日プランの成功確率は高まっていく。

 3つ目に重要なことは、小さくてよいので成果をあげていくこと(Small Win)である。人は、成果を出すことで自信をつけ、モチベーションをあげ、さらなる高みに上るべくつぎなるチャレンジをしていく。100日プランには、相当な確率で成功するメニューも潜ませていくことが重要なのである。あるメニューやプロジェクトが結果を出すことで、そのチームは自信をつけ、さらに変革をもたらそうとする。他のチームはそのチームに負けまいと頑張る。頑張るから結果が出る。個人の心の火が伝染し、組織の心に火がつき、モメンタムができる。変革・成功への機運が高まるのである。

2.「見える化」が会社を変える

 100日プランにおいては、ミッション・ビジョンから具体的な戦略・アクションプランを練ること、「WHAT」、「WHO」、「by WHEN」が重要であると述べたが、そのためには、一も二にも、「見える化」が必要となる。「見える化」なくして、課題はわからず、どのような解決をしたらよいのか、具体的にどれくらいの成果を目指すべきなのかがわからない。

 「見える化」をひとことで言うと、「データ・ファクトベースの経営を行うこと」。100日プランにおいては、「何が重要なデータ・ファクトであるか=Key Performance Index(KPI)」を定義し、KPIの収集とリアルタイムでの共有基盤を整備し、KPIの目標を設定することで、企業価値・財務数値を高めるバリュードライバー(要因・手法)が特定され、アクションプランを明確化していくのである。「見える化」を通して、市場・顧客・競合他社のデータを確認したうえで、自社の戦略・アクションを特定し、KPIと財務数値の目標を設定する。アクションを起こすことで、自社のKPIと財務数値が変化し、市場・顧客・競合他社にも影響を及ぼす。それをもとにさらなる自社の戦略とアクションを練っていく。こうして「見える化」からの示唆、仮説検証、アクション実行という経営サイクルを限りなく高速回転させていくことで、企業の競争力は生まれていくのである。

3.客観性の重要性(PEファンド)

 いままで、PEファンド投資後のアクションをのべてきたが、PEファンドの提供価値は如何なるものだろうか。次回に触れる予定であるが、PEファンドは…

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カーライル・グループ

■筆者略歴
富岡隆臣(とみおか・たかおみ)
早稲田大学法学部卒。米ニューヨーク大学にてMBA取得。
日本長期信用銀行に13年勤務。うち9年間は東京及びロサンゼルスにおいてシンジゲートローンのアレンジ業務及び事業戦略アドバイザリー等の企業金融業務に従事。1998年にGE Capital Japanに移籍。日本リース等の買収を担当するとともに、GE Equity Japanの立ち上げに参画。GE Equityの日本代表として、主にGEとの事業シナジーを追求した投資を実行し、4社を上場させた。現在は、ヘルスケア及びコンシューマー業界の責任者として、クオリカプス株式会社株式会社ソラスト(旧株式会社日本医療事務センター)、株式会社おやつカンパニー、及び三生医薬株式会社への投資を主導し、各社の非常勤取締役として企業価値向上に貢献。現在、株式会社ソラスト、株式会社おやつカンパニー、三生医薬株式会社、及び九州ジージーシー株式会社の非常勤取締役。

渡辺雄介(わたなべ・ゆうすけ)
慶應義塾大学経済学部卒。ハーバード・ビジネス・スクールにてMBA取得。
三菱商事の化学品グループにて、機能性食品素材、ニュートラシューティカルズ、プラスチック、石油化学の事業投資、メーカー経営、ターンアラウンドに従事。2006年にカーライルに参画。コバレントマテリアル株式会社(現クアーズテック株式会社)、AvanStrate株式会社、株式会社ツバキ・ナカシマ、シーバイエス株式会社(旧ディバーシー株式会社)、九州ジージーシー株式会社の投資やモニタリングに関与。現在、シーバイエス株式会社(旧ディバーシー株式会社) 及び 九州ジージーシー株式会社の非常勤取締役。

 

 

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