[対談・座談会]

2017年11月号 277号

(2017/10/17)

[座談会] 海外大型M&Aを成功に導くグローバル組織・人事改革の要諦

~ドメスティック経営から脱皮するために必要なこと

【出席者】(五十音順)
 梯 慶太(日本板硝子 執行役員 グループファンクション 人事部 アジア統括部長 兼 グローバル人事特命プロジェクト担当部長)
 加藤 雅也(日本板硝子 執行役員 社長付特命プロジェクト担当)
 竹田 年朗(マーサー ジャパン グローバルM&Aコンサルティング パートナー)
  • A,B,EXコース

右から梯 慶太氏、加藤 雅也氏、竹田 年朗氏

【目次】
思い切ったグローバルガバナンスへの発想転換
グローバルの中に呑み込まれた組織
ファイヤーウォールがグローバル化を阻む
グローバルな従業員に経営理念を浸透させているか
“バリューズ・アンド・プリンシパル”はモーゼの十戒と同じ
“インターナル・コミュニケーション”の重要性
NSG(日本板硝子)の組織と一般的な日本企業の組織の5つの違い
グローバル組織の設計概念を変更
リモートマネジメントに必要なピープルマネジメント力
グローバルマネジメント育成プログラム
人事部主導の“キャリアパス”ではグローバルな人材育成はできない
“幽体離脱”の視点が必要
組織に作り上げていく時に最も重要なのはCEOの能力

思い切ったグローバルガバナンスへの発想転換

―― 日本企業の海外買収が増勢を続けていますが、買収後のPMIに問題を抱えているところが少なくありません。その背景には日本企業自体がグローバル経営に対応した組織・人事体制を構築できていないことが背景にあるとの指摘があります。そこで今回は、海外大型M&Aを成功に導くために組織・人事改革面でどのような体制を構築すべきなのかについて、2006年の英国ピルキントンのM&Aを機に、大きくグローバル化に舵を切った日本板硝子(NSG)でピルキントン買収プロジェクトのキーパーソンを務めた加藤雅也さんと梯慶太さんのお2人、そして弊誌「マール」で「ポストM&A戦略」の連載をお願いしておりますマーサー ジャパン グローバルM&Aコンサルティング パートナーの竹田年朗さんに議論していただくことにしました。

  加藤さんは、米国でのJV工場勤務、北米統括会社(財務戦略、M&Aプロジェクト)などを経験され、01年末より本社経営企画部部長(海外担当)としてピルキントン買収プロジェクトの企画リーダーを務められて、買収完了後、統合推進本部の経営企画担当として英国にも駐在しておられました。また、梯さんは加藤さんの後任として北米統括会社に赴任、その後同社の社長に就任され、北米駐在のまま04年頃からピルキントン買収プロジェクトのメンバーとして参加し主に人事・組織文化の観点から買収構想を準備し、買収と同時に統合推進本部のメンバーとして英国に駐在、その後、コーポレート人事部で日本の統合作業をサポートするとともに、人事部アジア統括部長やグループ人材開発・報酬部長などを務められたグローバル人事・人材開発のエキスパートです。

  NSGでの経験を踏まえて、教科書ではわからない大型買収後の組織・人事の大改革、さらにドメスティックな企業がグローバル企業に脱皮するために何が求められるのかという点についてお話合いいただければと思います。

  板ガラス業界で世界シェア6位のNSGによる3位のピルキントン買収は、約6160億円という買収金額もさることながら、「小が大を呑む」買収ということでも注目されました。これによって買収後の新会社は業界で世界1位グループへと飛躍を遂げたわけですが、その後、組織を含めた大統合が行われました。まず、加藤さんからピルキントン買収に至った経緯を含めてグローバル化への改革についてお話しいただけますか。

加藤 「ピルキントンの買収の全容をすべて詳しくお話しすると、何時間あっても足りませんので(笑)、まず概略をお話しして、今日の座談会の中で必要な部分についてはその都度ご説明するという形にします。

  『小が大を呑む』と言われたこの買収で問題であったのは事業サイズの点だけでなく、グローバル経営の経験やノウハウの点で買収会社と被買収会社の実力が完全に逆転していたということです。買収前のNSGは若干の限られた地域で海外拠点経営の経験はあるものの、基本的には典型的なドメスティック型の日本企業でした。一方、ピルキントンは英国発祥ながらM&Aを活用して欧州、北米、南米の全域及び中国の一部へと海外事業を拡張してきた歴史があり、彼らとしても海外経営を如何にすべきか試行錯誤を繰り返し、この買収が起きた06年の時点でかなり完成されたグローバル経営システムをほぼ整えておりました。

  従って、この買収を成立させるにはファイナンシャル・アレンジメントとしてユニークであっただけでなく、PMI設計としても非常にチャレンジングかつ大きな発想の転換が必要とされました。それは何かというと、買収会社が被買収会社を従えて支配し、指導・コントロールするのが当然だという固定概念を捨てること、加えて、せっかく日本企業が買収するのだから日本式経営の強みを注入すれば経営が改善するはずだという自動的な思い込み、これらを発想転換する必要があったということです。

  買収企業の持つ収益力、経営力、技術力、戦略、ブランドなどが被買収企業に対して圧倒的に勝る場合は、『買収者のやり方を被買収者に指導する』という考え方で正しいのでしょうが、本件の場合、そうではない。特にグローバル経営の経験蓄積において被買収者の方が圧倒的に勝るという事実、及び、買収後のグループ連結売上は約80%を海外に依存するという構図を冷静に認識した場合、PMI設計は如何すれば合理的で効果的かと考えたわけです。

  買収資金のアレンジで手間取り、買収準備は4年を要しました。その過程で弊社トップは随分悩みましたが、結論として、統合新会社のガバナンス基本体系として次の3点を決断しました。(1)執行組織はピルキントンの完成されたグローバル組織体系と管理システムをそのまま保存し、その中にNSGの執行組織を入れ込む。人事配置やサクセッションプランは、国籍・出身会社に関わらず適材適所とする。(2)取締役会と3つの委員会を改造しグローバル経営にふさわしいガバナンス能力と役割を持たせ、かつ執行組織の長であるCEOをグリップする、(3)経営理念、価値観及び長期戦略ビジョンのドラフトはNSG側で立案し、議論・合意を経て新会社に与える(下図参照)。

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