[【法務】Withコロナ時代のクロスボーダーM&Aの実務と新潮流(東京国際法律事務所)]

(2020/10/08)

【第2回】 クロージングまでの財務変動リスクにどう対処するか? - 価格調整条項(米国型と欧州型の相違点)

森 幹晴(東京国際法律事務所 代表パートナー 弁護士・NY州弁護士)
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今回は、買い手側に立つ日本企業の立場で、M&A契約の締結からクロージングまでの対象会社の財務変動リスクにどう対処するか、について考えたい。事案によっては、入札や交渉の状況でビジネスリスクとして飲み込まなければならない状況もあるが、他方で、交渉力を背景に交渉する場合、その契約上の対応策の一つが価格調整条項であり、価格調整条項をめぐる米国型と欧州型のM&A契約の実務の相違点から解説する。特に「Withコロナ時代」の不確実性の高い状況下においては、M&A契約の締結からクロージングまでの期間が(例えば複数の国で競争当局のクリアランスが必要となるなど)数カ月と長期に及ぶケースでは、買主の立場では、その間の対象会社の財務変動リスクをどうヘッジするかという点は1つの大きな課題となる。過去の財務実績を踏まえてクロージングまでの財務状況を予測することはもちろんであるが、契約上の手当としては、価格調整条項を株式譲渡契約(Stock Purchase Agreement。以下「SPA」という)などのM&A契約に入れ込んでおくことが1つの対応策となる。

M&A契約の米国型と欧州型(とアジア)の相違点

 「欧米」と一括りとされることが多いが、実は米国と欧州は、伝統的にM&A契約の構造が売主と買主のどちらに有利かという点で対極にある。一般的に、米国型のM&A契約は表明保証やコベナンツなどが非常に詳細で買主にとってのプロテクションが網羅されており、買主有利(buyer friendly)な構造となっている。これに対して、欧州型のM&A契約は、米国型の契約ほど詳細ではなく、一般的に売主に有利(seller friendly)になっている。欧州型は、もともとは英国型といってもよいが、欧州は全域で英国拠点の法律事務所の影響力が強く、契約のスタイルにも英国型のスタイルが色濃くあらわれている。

 アジアやその他諸国は、各国の歴史的経緯や法律業界で米国と欧州のいずれの影響が強いのかに応じてM&A契約のスタイルや実務も異なっている。日本企業にとって比較的なじみが深いのは米国型の契約スタイルではないかと思うが、米国型のM&A契約が支配的なのは、北米・南米、イスラエル、日本、韓国などである。他方、歴史的に英国の影響力が強い国々、例えば、シンガポール、マレーシア、インド、オーストラリアなどは欧州型の契約スタイルの影響が強い傾向にある。…

東京国際法律事務所

■筆者略歴

森 幹晴(もり・みきはる) 

2002年東京大学法学部卒業。長島・大野・常松法律事務所。2011年コロンビア大学法学修士課程修了。2011-2012年Shearman & Sterling(ニューヨーク)。2016年日比谷中田法律事務所。2019年東京国際法律事務所開設。
日本企業による海外M&A・国内M&A、国際仲裁等に注力。ALB Japan Law Awards 2020において、Dealmaker of the Year、Managing Partner of the Yearの各カテゴリーにおいてファイナリストとして選出。IFLR1000 - Guide to the World’s Leading Financial Law Firms において、Leading Lawyer - Notable Practitionerに選出。

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