[書評]

2006年10月号 144号

(2006/09/15)

BOOK『企業支配の経営学』

村田和彦著 中央経済社 5000円(本体)

企業支配の経営学
 資本主義的経済の基礎となる企業。その企業を支配しているのは誰で、企業活動は誰の意思を実現するために行われているのか。この企業の支配者が解明されれば、支配者を変えることを通して、企業活動も変わり、我々国民の生活の質をもっとよくできる。こういう前提で、経営学では支配者を探求する研究が行われてきたという。
 法律的には、企業の株式の過半数を制するものが企業を所有し、支配者とされる。しかし、巨大企業では、株式が分散し、このような観念的な法律論では説明ができなくなっている。こうして経営学者がこの難題に挑戦してきた。
 著者はこれまでの先行研究者の学説をたどる。海外では、所有と経営の分離で知られるバーリとミーンズの「経営者支配説」が有名だが、これ以外にも、日本や海外で豊富な学問研究の蓄積があるのである。
 ①相対的個人大株主層による構造的支配が行われているとする説(小松章)、②利害が競合し、集団としてのまとまりがない機関大株主が支配者だとする説(スコット)、③経営者支配に立脚しながら経営者は株主からより高い利潤を上げるよう制約を受けているとする新しい経営者支配説(ハーマン)、④会社は資産を自己のものとして所有し、自らが支配者となるという「会社それ自体支配説」、⑤株主に加え、従業員もその会社特有の熟練や投資を通じて会社の資源をコントロールするようになるとする従業員支配説(ブレア)が紹介されている。
 このうち、会社それ自体説は日本の学者が中心で、本書では北原勇、片岡信之、宮崎義一の3人の説が解説されている。日本でこの考え方が主流なのは、法人観について法人実在説が強いこととから、もっとも受け入れやすいのだろう。
 M&Aが盛んになり、会社は誰のものか、だれが支配しているのかの議論が盛んになっているが、支配論について体系的に整理、紹介されていて、この議論の前提知識を学ぶのに有益である。この分野の研究ではマルクス主義経済学の影響が色濃いことも分かる。市場経済主義一辺倒になり勝ちの思考への警鐘にもなる。
 著者は一橋大学で30年余をこの研究に打ち込んできた。本書は2000年以降に著者が発表した7つの論文を中心に構成される。著者の考え方を要約すれば、次のようになるだろう。今日の会社の支配者は複数の非個人株主からなる連合体であって、経営者の解任権を保持することで、経営陣に内部留保利潤の極大化という制約を課す。しかし、こうした株主が結束するのには時間がかかるし、よほどのことがなければ、支配権を発動する場面はなく、経営者の自由裁量の余地は拡大する。ここに企業統治問題の発生する理論的基盤がある。
 会社とは何か、その中心に位置する経営者とは何か、コーポレートガバナンスとは何かなどについて考えるヒントを示してくれる。学術書を読むことの大切さを感じた。(青)

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