[書評]

2009年1月号 171号

(2008/12/15)

BOOK『国際会計の潮流―類型学説を中心とした各国会計関係論』

松井泰則著白桃書房3600円(本体)
いま、世界の会計基準が一つになろうとしている。すでに百カ国以上が、国際会計基準(IFRS)を採用している。最後まで自国基準にこだわっていた米国も数年後の採用を表明、日本もその方向に踏み出している。
背景にあるのは、経済のグローバル化だ。企業が国境を超えてビジネスをするようになり、国際資本市場での資金調達が活発になる。投資家にとって、同一の物差しで企業の価値を量れればこんな便利なことはない。一つの会計基準の登場は歴史の必然ともいえる。
そもそも各国の会計実務にどんな差異があるのか、なぜ違いが生じるのか、差異をどう類型化できるのか。1960年代から90年代にかけ類型学説と呼ばれる多くの論文の集積がある。本書はこの学説をよりどころに、現在の統一化の動きに光を当てる。国際会計基準をつくるIASB(国際会計基準審議会)の歴史、EUの対応の仕方、米国や日本による国際基準とのコンバージェンス(収斂)の歩みなども解説されている。
著者の結論は、統一化は決して最終ゴールではないというのだ。これは第一波であり、その後に第二波がくる。そのときの姿は多様化した2重構造だ。上部は統一した会計基準だが、下部は各国ごとに異質な会計制度が厳然と存在する。例えば、日本は資源のない先進技術立国である。グローバルに展開する一握りの企業の裾野に膨大な中小企業が広がる。こうした企業にまで国際基準を適用する必要はない。EU各国は連結財務諸表と個別財務諸表を切り離し、前者に国際会計基準を採用し、後者には自国基準を残したが、産業政策を考えるうえで、国内会計をどうするかの会計戦略が今後、重要になるとしている。
著者の思考の中核に会計の相対性の概念がある。これは、類型学の研究から導き出される。会計の目的や制度は国ごとに違うし、企業のレベルによっても違う。会計報告を必要とする人によってほしい情報は違ってくる。各国の会計実務は、複式簿記という世界共通のツールを使用しながら、利益計算の目的やアウトプットの方法は様々なのだ。この点を明らかにしたのが、類型学説の学問的遺産なのだろう。
その観点から今の国際会計基準をみてみれば、投資家のための会計基準である。将来のキャッシュフローや時価情報を重視するM&Aや企業価値評価には便利だ。包括利益の考え方もその延長にあるのだろう。しかし、会計情報を使うのは何も投資家だけでない。債権者や従業員といったステークホルダーもいれば、税務当局もいる。会計基準は、経営努力の成果が分かるものである方がよいと考えれば、純利益が重視される。
では、学問としての会計学の中核になる概念は、何なのか。利益とみられがちだが、著者は慎重に断定を避ける。成熟した社会では、社会が企業に求めるものは、単なる利益追求ではない。環境会計など非財務情報を含めた情報提供が必要になる。会計学が、経済だけなく、社会、文化、経営の実践とも深くかかわっていることを教えてくれる。(青)

バックナンバー

おすすめ記事

アクセスランキング