[書評]

2009年3月号 173号

(2009/02/15)

BOOK『経営学の系譜―組織・戦略理論の基礎とフロンティア』

白石弘幸訳 中央経済社 2800円(本体)

『経営学の系譜―組織・戦略理論の基礎とフロンティア』

白石弘幸訳
中央経済社2800円(本体)

企業に関係する学問は、会社法学、経済学、会計学、経営学など多岐に分かれる。現代の企業は巨大な存在であるだけに様々な角度から光をあてなければならないのだろう。中でも経営学は一番新しい学問である。20世紀に米国で発展し、日本でも戦後、盛んになっている。本書は、経営学の理論の発展をたどりながら最新の到達点を解説している。
経営学からみて、企業とは何か。まず組織としての性格に注目した研究が行われた。バーナードは「2人以上の人々の協働的活動の体系」と定義した。組織が活動する過程で様々な意思決定状況が生じる。サイモンらは、管理者の本質的役割は、組織を動かす意思決定にあるとした。こうして意思決定がどういうプロセスで行われているかの研究が進む。
組織は存続していけば、おのずと組織文化が形成されていく。建設業界では男っぽい文化、石油業界では会社を賭ける文化、銀行業界では手続き重視の文化だ。業界共通の特徴もあれば、企業ごとの特徴もある。創業者の理念、危機のときの対応、扱う製品・サービスの特性といった、文化の源泉をめぐる研究も行われるようになった。
協働体である企業は、効率的に活動すればするほど大きな成果が生まれる。そのため協働体の枠組み(ハード)を合理化し、メンバーの意欲(ソフト)を高める必要がある。こうして経営管理の問題に研究は広がった。協働の枠組みとして科学的管理法やフォードシステムが生まれ、標準化、部門化が実践された。しかし、この管理システムは人をモノのように扱い、作業効率の向上しか考えていない点で限界にぶつかる。「ホーソン実験」で人間は単純にコントロールできない複雑な心理をもった存在であること、職場での非公式組織の重要性が発見され、組織と動機付けの研究に発展する。人間関係論の展開である。
一方、人間を中心とする組織とは別の企業の側面に注目した研究も始まる。企業は、資源・能力の塊でもある。これが価値の源泉とする見方は資源ベースビューと呼ばれる。この研究は、さらに資源と能力を区別し、競争優位の源泉として「組織能力」の概念を抽出した。ハメルらは、企業の事業活動を根底で支える組織能力、顧客に高い付加価値を提供する能力をコア・コンピタンス(中核能力)と名づけた。1994年のことだ。市場は成熟するが、コア・コンピタンスは市場を越える。企業は持続的成長を目指すなら自社を市場の運命に縛り付けることをやめ、コア・コンピタンスで定義することの重要性を示した。さらに知識経済の到来でドラッカーらの知識ベースビューによる企業観も盛んになる。
企業は生き続けていくためには、あるドメイン(生存領域)で一定のポジション(地位)を占め、他社と競争し、持続的優位を形成していかなければならない。最後はポーターの競争戦略論で締めくくっている。著者の見解は極力押さえ、豊富な先行研究と現在の研究のフロンティアの紹介を通じて経営学の世界に読者を誘ってくれる。暗黙知、自己実現などの言葉の出典や学問的な正確な意味も紹介されている。学者の研究活動について、著者は、少し後ろを走っている次世代のプレーヤー(研究者)にボールを渡すラグビーの精神にたとえているが、真理への到達を目指す学者としての思いが伝わってくる。
 

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