[M&A戦略と会計・税務・財務]

2020年2月号 304号

(2020/01/20)

第151回 令和2年度税制改正によるイノベーション投資促進税制

荒井 優美子(PwC税理士法人 タックス・ディレクター)
  • A,B,EXコース
1. 日本企業の課題とイノベーションの促進

 2019年12月12日、与党の令和2年度税制改正大綱(以下、「令和2年度税制改正大綱」)が決定され、12月20日に閣議決定された。令和2年度税制改正大綱では、「Society 5.0 の実現に向けたイノベーションの促進など中長期的に成長していく基盤を構築する」ことを産業政策の目標とし、イノベーションを持続的・自律的に生み出していくためには、企業自身が保有する内部資金や技術を有効に活用することを支援する税制措置が必要であるとしている。

 安倍政権は、2012年に発足(第2次安倍内閣)以来、デフレ脱却・経済再生を目標に掲げ、企業の国際競争力強化のための政策に重心を置いて来たが、近年は生産性革命、高付加価値創出のためのイノベーション促進をより重視した政策に移行しつつあると言える。この背景には、我が国における人口減少と少子高齢化の深刻化の一方で、生産性や成長力が欧米諸国から劣後する状況が改善する兆しが見られず(図表1、2参照)、デジタル化と第4次産業革命の進展する経済環境にあっては、企業のイノベーションの実行による生産性改善と付加価値創出が喫緊の課題であると、強く意識されてきたことがある。

図表1 時間当たり実質労働生産性の対米国比水準(2017年)/図表2 先進国企業のマークアップ率の推移

 2010年以後、特に日本企業と欧米企業のマークアップ率(原価に対する販売価格の倍率)の格差が拡大傾向を示すようになる。この頃から、ロボット工学、人工知能 (AI)、インターネット (IoT)等を始めとするデジタル革命が急速に進展し、従来と異なる新たなビジネスモデルで、いち早くイノベーションを生み出す企業のマークアップ率は大きく膨らむこととなった。日本企業のマークアップ率の低さに関しては、「日本企業は、大規模化・多角化が進むほど、非中核事業を抱え込むこと等を背景として、利益率が低下する傾向にあり、既存企業の内部資本市場(Internal Capital Market)の活用効率に差がある可能性」があり、「内部の経営資源を新たな分野に投資することで成果を上げることができる潜在可能性を有している」と考えられている(成長戦略実行計画案)。

 企業の国際競争力の強化のため、欧米諸国並みの法人税実効税率の引き下げと生産性向上の投資減税措置により、日本企業は内部留保を高めて来たが、第4次産業革命の可能性を最大限引き出すためには、内部資金を新規分野やリスクの高い分野に配分し、将来の成長基盤となる新たな事業やベンチャー企業への投資を飛躍的に進める必要がある(成長戦略実行計画案)と言われる。即ち、既存企業が人材・技術・資本の閉鎖的な自前主義、囲い込み型の組織運営を脱し、開放型、連携型の組織運営へ移行する、オープンイノベーションの実行である。

 令和元年度の税制改正では、研究開発型ベンチャーの成長を促すため、一定のベンチャー企業に対する研究開発の優遇措置の創設の他、オープンイノベーション型研究開発の支援として、大企業や一定の研究開発型ベンチャー(新事業開拓事業者等)との共同試験研究及びそれらに対する一定の委託研究等が特別試験研究費の対象として追加された(図表3参照)。

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