[書評]

2009年12月号 182号

(2009/11/15)

BOOK『企業法制の現状と課題』(早稲田大学21世紀COE叢書第4巻)

上村達男編 日本評論社3800円(本体)

 

企業法制の現状と課題

 
企業法制のあり方は、企業の発展のみならず市民生活にも影響する。早稲田大学21世紀COE「企業社会の変容と法創造」は、企業、市場、市民社会をキーワードに新しい法律学の創造を目標に研究活動に取り組んだ。その成果の一端が本書である。この研究目的は、現在の同大グローバルCOE「成熟市民社会型企業法制の創造」に引き継がれている。
COEを率いる上村達男教授は、以前から株式会社制度は、資本市場に適合的な会社制度であるとし、会社法を証券市場と一体的にとらえ、「公開会社法」の制定を提案してきた。本書でも、冒頭でその後の理論の展開や要綱案の説明、制定の道筋などに踏み込んで論じている。これにより日本は金融商品取引法・会社法峻別論を克服し、欧米の発想に理論で追いつき、株式会社は市民社会に開かれたものになるという。
研究に参画した学者らが様々な視点から日本の企業法制の現状と課題を検証し、成果を寄せている。会社法の戦前の実像から将来像、立法のあり方、英国の買収法制まで多彩だ。今の会社法が小規模会社を原型にする点への疑問は、多くの論者が指摘している。では、戦前の日本の株式会社はどうだったのか。旧商法下における株式会社観は、証券市場を有する大規模で公開性の会社が前提で、学説も株式は自由譲渡が原則で取引所の存在により本来の機能が発揮できると主張していたという。今は昔の判例・学説はあまり顧みられないが、当時の株式会社は「公開会社法」で示される概念に近いことが明らかにされる。
稲葉威雄弁護士は、法務省で長く立法担当者を務めた経験、裁判官としての実務、学者としての思索をもとに「日本の会社立法のあり方序説」を論考している。会社が効用を発揮し、弊害をもたらさないため会社法は強行法規性を基礎にすべきこと、会社法制は伝統のある法領域で過去の法制に基づく一定の法秩序が形成されていること、恒久的な基本法制と一時的な必要に対応するための立法とは区別して考える必要があることなどのテーゼを立てる。ところが今の会社法は、定款自治を広く認めている、これまで積み重ねられてきた法律的努力を無視している、一時的風潮である規制緩和を原理としている、と指摘し問題点を浮き彫りにする。法制審議会部会長を務め、会社法案の要綱をまとめた江頭憲治郎教授は「会社法制の将来展望」を論じる。市場のグローバル化のなか、各国の会社法制も一制度への収斂がいわれ、「米国化」が進む。会社法が大幅に定款自治を拡大したのは、この流れに即したものだという立場だ。しかし、要綱に反する会社法の規定や法律の委任を超える省令が含まれると指摘する。従来の法律作成の慣行、法令の段階秩序が無視された点が少なくなく、担当官の秩序軽視の現われであり、すみやかな改正や廃止を訴える。
平成に入っての規制緩和の象徴が新株予約権制度、種類株式制度である。これにより金融商品を設計する自由度が増し、会社の資金調達が便利になった。この問題は従来、資金調達の便宜と既存株主の保護との調整という観点から論じられてきたが、久保田安彦准教授は、証券市場の効率性という論点から検討する。こうした商品は、複雑なため投資家の取引コストを増やし、証券市場の効率性にも影響を及ぼす。金融商品の仕組み法といわれる会社法が証券市場や投資家に対する「製造物責任」を十分に果たしているか疑問とする。
会社法の役割や問題点が分かり易く示されていて、学問の大切さを痛感した。(青)

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