[マールインタビュー]

2014年2月特大号 232号

(2014/01/15)

No.164 友好的買収の場面における取締役に対する規律づけの必要性と方策を提言

 白井 正和(東北大学 大学院法学研究科 准教授)
  • A,B,EXコース

白井 正和(東北大学 大学院法学研究科 准教授)

[1]問題提起

潜在的な利益相反問題の存在


-- どんな問題ですか。

  「友好的買収の場面では、一般に買収対象会社における取締役と株主との間に潜在的な利益相反問題が存在するという問題です。取締役が対象会社の交渉力を利用して、買収後の会社における役職の確保や報酬の増額、顧問契約の締結などの形で、本来は株主が享受すべき利益の一部を自らの手中に収めてしまう可能性が存在します。この問題は近年、米国で徐々に指摘され始め、理論研究や実証研究によっても確認され始めています。例えば90年代後半の3年間に取引が完了した200件余の友好的買収を対象に、買収を通じて対象会社の経営陣が得た私的利益の存在と、株主が得たプレミアムの額との関係を分析した研究もそうです。ここでは、対象会社のCEO(最高経営責任者)が退職金の増額、特別ボーナスの支給、コンサルタント契約の締結、買収後の会社における役職の提供といった特別の利益を得た場合には、株主に支払われたプレミアムの額が低くなる傾向があることが示されています。そしてこうした問題は、日本においても同様に妥当する可能性が高いのではないか。むしろ日本では、取締役が株主の利益を図るという規範が実務上必ずしも確立しているとは言えないことや、株主に代わって内部者出身の取締役を監視することを期待されている社外取締役が少ないという現実を考慮すれば、こうした潜在的な利益相反問題は米国以上に深刻だと言えるのではないか。私はこうした問題意識に基づき、理論的な観点から、日本の現時点で実現されている対象会社の取締役に対する規律づけは、株主の利益を保護するうえで十分なものと評価できるかを検討することにしました。そして検討の結果、日本では、対象会社取締役の規律付けが大幅に不足しているという現状を認識するにいたりました」

-- 私は、利益相反問題は、敵対的買収やMBOの場面に限られるのかと思っていました。

   「従来の日本では、企業買収時の取締役と株主との間の利益相反問題は、まさにそれらの場面での議論が中心でした。敵対的買収の場面が一番分かり易いと思われます。米国でも、敵対的買収の場面で会社を追われる取締役が自己保身に走るのではないかという利益相反問題が1980年代に提起され、かかる問題に対処する形で、取締役の信認義務の審査基準が形成されました。日本でも、2000年代前半あたりから敵対的買収の脅威が現実に認識されるようになり、買収防衛策の有効性に関する議論が盛んに行われるようになりました。その後、友好的買収の場面についても、利益相反関係が顕著なMBOについて経済産業省・企業価値研究会の指針が出されるなど、議論が盛り上がってきたところです。確かに、こうした場面では取締役と株主との間の利益相反関係を容易に認識できるのですが、友好的買収一般の場面について潜在的な利益相反問題が存在するという問題意識は、日本ではあまりなかったように思われます」

 

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