[マールインタビュー]

2014年9月号 239号

(2014/08/15)

No.169 株式買取請求権の理論と実証研究などで日本のM&Aを前進させる方策を提言

 飯田 秀総(神戸大学大学院 法学研究科 准教授)
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飯田 秀総(神戸大学大学院 法学研究科 准教授)

[1]株式買取請求権の意義

通説と実務に問題提起


-- 株式買取請求権はどんな制度ですか。

「会社が合併を行うときに、株主総会で合併契約の承認が必要です。しかし、合併に反対する株主がいます。こうした反対株主を救済するために株式買取請求権が認められています。行使されると、会社が反対株主から株式を買い取ります。通常、株主はいったん会社に出資すると、出資金の返還を会社に求めることはできません。しかし、株式買取請求権を行使すれば、出資金の払い戻しと同じ結果になります。合併のように会社の基礎的な変更が行われる場合に、例外的に株主に退出権が与えられるのです」

-- 沿革はどうですか。

「日本では、戦後間もない1950年(昭和25年)にGHQの指令のもとに商法の大改正がありました。その中に株主権の充実があり、株式買取請求権も含まれていました。資本多数決の原則に反するといった反対意見もあったのですが、理論的にも株主権の充実は正しいということで立法化されたのです。その後、昭和40年代の商法改正で、定款による株式の譲渡制限を認める規定を導入したときに、同じように反対株主に株式買取請求権を認めたのです。合併以外の局面でも、少数株主の保護に役立つ制度として幅広く使えるとして、日本で拡大の方向に進んだと思われます」

-- その後、2005年の会社法で、その内容が大きく変わったと言われています。

「会社法で、合併等対価の柔軟化が実現し、現金を対価とする組織再編(現金合併など)が解禁されました。それにあわせて、株式買取請求権の買取価格の文言も変更されたのです。それまでは、株主総会で合併契約の『承認ノ決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナ価格』(ナカリセバ価格)となっていたのが、単に『公正な価格』となりました。これによって、合併から生じるシナジー効果を買取価格の算定に際して考慮する制度に変わったのです。この結果、買取価格が以前より高くなる可能性があるということで、裁判例が急増するようになりました」

-- どうしてナカリセバ価格ではまずかったのですか。

「当時、こう説明されていました。合併は1+1が2ではなく、3とか4とかシナジー効果が発生するから行われる。株式が対価であれば、合併によって生じるシナジーがいくらになるかを算定しなくても、合併比率に応じてシナジーが分配される。しかし、現金合併の場合、シナジーがいくらになるのか算定した上で対価の額を設定しないと、シナジーの分配が行われないことになってしまい、消滅会社の株主はシナジーの分配に与れず、存続会社の株主がシナジーを独り占めにしてしまう問題がでてくる。支配・従属会社間のような利益相反の要素のある企業買収において、支配会社が従属会社の取締役会や株主総会を実質的に支配しているので、こうした問題が起きやすく、従属会社の少数株主の利益が害されてしまう。これは不公正だから、買取価格の中でシナジーの分配をする必要があるのだと。私は搾取仮説と呼んでいるのですが、この考え方は、会社法の現代化を審議していた法制審議会会社法部会の部会長を務めていた江頭憲治郎教授の長年のご持論であり、それが反映されたと言えます。この改正により、その後、現金合併に限らず一般の合併でもシナジーを分配するという解釈になっています」

-- 先生はこうした通説や実務にノーを突きつけたのですね。
 

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